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「実はさ、さっき担任の松雪先生に俺を北海道の班に入れて貰えないか直談判しにいってたんだ」
「は? なんで?」
「だってせっかくなら、修学旅行村瀬と一緒がいいもん。たった一回しかないんだし」
「そりゃ……そうだけど」
穏やかでのんびりしてる性格だけど、宮森のこの行動力とか、勢いってどこに隠されていたんだろうか。
「まぁ、結果的には却下されたけど……やるだけやってみないとね。なんか悔しいし」
俺には無い部分を、宮森は沢山持っていて。きっと俺はそこに惹かれたのだと思う。
仁志が教えてくれた、あの曲の歌詞みたいだ。
「そういえば少し前にさ……合コンあっただろ? あの時に俺がイヤホンで聴いてた曲……あれ、仁志が教えてくれたんだ」
さっき仁志が教室に戻ってきたとき口ずさんでいたのも同じ曲だ。
「あ、知ってる。実は稲見さんとパンケーキ食べに行ったとき、ちょうどその曲がかかっててさ。確か映画に使われたって」
映画? どんな映画だろうか。
「俺は映画のことは知らないんだけど、仁志がライブでやったことがあって、気になって教えて貰ったんだ。その曲の歌詞がさ、ちょうどあの頃宮森のことで悩んでたから……個人的にすごい刺さって」
「その曲、ハローグッバイってやつ?」
「正解。このタイトル、どういう意味か分かる?」
「え、普通に……挨拶のハローとグッバイじゃないの?」
二人分の影が廊下に伸びて、斜めに落ちてくる陽光は朱を混ぜたように濃くて。
俺は思わず立ち止まった。
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