ハローグッバイ

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「相反することの、象徴なんじゃないかって言われてる」 「相反する?」 「うん。例えばさ、一方の人間がハローって口にしても、相手はグッバイと告げて去るかもしれないってこと。光と影とか、生と死とか。すぐ近くにあっていつも同じ時間を共有してても、重なり合ってるようで決して混ざらないって意味」 この廊下を照らす光と、足元の伸びた影みたいに。 長年隣にいても、決して混ざらなかった俺と宮森の心みたいに。 「難しいけど……村瀬の言いたいことは、何となく、わかる。わかるけど……」 立ち止まったままの俺に、宮森が一歩分、体を寄せた。 「それなら俺たちは、両方を共有すればいいと思う」 「両方……って?」 「ハローとグッバイ両方。俺と村瀬の相反する部分、両方。どっちかに合わせようとするから、きっと悩みが増えるし、変に気を使い合っちゃうような気がするんだ。だから、はっきり言い合おう。俺たち8年も一緒にいるんだからさ。隠さず気持ちをぶつけ合おうよ。喧嘩もしたっていいじゃん」 「宮森……」 宮森の手が伸びて、俺の服を掴む。 「明日、テスト勉強、一緒にしよ」 そう言って笑う宮森が、射し込む夕暮れの光に照らされて、秋の柔らかな太陽のように輝いていた。 かつて稲見さんが「太陽だ」と言ったのは決して大袈裟なんかじゃなくて。 きっとどこにいても。 どんなに離れていても。 「じゃあ、明日の放課後、俺の家で勉強ってことでいい?」 「うん。村瀬の家、久々だなあ」 「ちなみに親、どっちも帰り遅いから……」 「へえ。おじさんとおばさん、忙しいんだ」 「まあ、そうだけど……お前……やっぱ鈍いよな」 「んん? どういうとこ?」 「内緒」 「えー、言い合おうってさっき言ったばっかりなのにー」 「……なあ、宮森」 「なに?」 等しく俺の見上げた先には、いつも太陽みたいにこの笑顔が輝いているに決まっている。 見失うことの無いまぶしさで。 また明日も、自転車の後ろに俺を乗せるのだろう。 「ずっと一緒にいような」 「そんなの、あたり前じゃん」 fin
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