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「稲見さん、そろそろ行こうか」
「うん。それじゃ宮森くん、またね」
「うん……また」
なんでモヤモヤするのか分からない。
稲見さんに振っていた手を、ふと、止める。
「村瀬、」
「……なに?」
呼び止めた背中が振り返る。
「今日さ、本当に行く?」
「宮森が行くなら行くよ」
向けられる笑顔はいつも通り。
なのに、何かが違っていて、その〝何か〟が分からない。
あれほど一緒にいて、分からないことなんて一つも無かったのに。
積み重なる疑問が、膨れ上がっていく度に、今まで何も考えずに言えていたことが、どんどん喉の下に溜まっていく。
「じゃあさ……俺が行くのやめたら?」
「行かない」
なんで?
「そ、か……」
「なんだよ? 行くの辞めんの?」
「いや、せっかくだし……行くけど」
「じゃあ、一緒に行こう。今日掃除当番だろ? 終わったら昇降口で待ってて」
「うん」
クラスが離れただけなのに、どんどん、村瀬のことが分かんなくなりそうで。
なんか、嫌だ。
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