左手はずっと君をさがしてる

7/10

69人が本棚に入れています
本棚に追加
/73ページ
「稲見さん、そろそろ行こうか」 「うん。それじゃ宮森くん、またね」 「うん……また」 なんでモヤモヤするのか分からない。 稲見さんに振っていた手を、ふと、止める。 「村瀬、」 「……なに?」 呼び止めた背中が振り返る。 「今日さ、本当に行く?」 「宮森が行くなら行くよ」 向けられる笑顔はいつも通り。 なのに、何かが違っていて、その〝何か〟が分からない。 あれほど一緒にいて、分からないことなんて一つも無かったのに。 積み重なる疑問が、膨れ上がっていく度に、今まで何も考えずに言えていたことが、どんどん喉の下に溜まっていく。 「じゃあさ……俺が行くのやめたら?」 「行かない」 なんで? 「そ、か……」 「なんだよ? 行くの辞めんの?」 「いや、せっかくだし……行くけど」 「じゃあ、一緒に行こう。今日掃除当番だろ? 終わったら昇降口で待ってて」 「うん」 クラスが離れただけなのに、どんどん、村瀬のことが分かんなくなりそうで。 なんか、嫌だ。
/73ページ

最初のコメントを投稿しよう!

69人が本棚に入れています
本棚に追加