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「こんな我儘な僕の〜
手を離さなかった〜君に♪
ハローグッ……あ?」
「あぁ……タイミング悪すぎ」
「仁志ッ!!」
あと数センチ。
俺と宮森の恋は、未遂で終わったこのキスのように、こうしてもどかしく進んでいくのだろう。
「ぬあぁぁー! っわるい! 邪魔した!」
「ほんと邪魔」
「みっ、見られたあぁあー!!」
慌てて走り去っていく仁志の背中を怯えた目で追いながら、宮森が手をプルプル震わせて俺の腕を掴んだ。
「さ、最悪……明日仁志に何言われるか想像したら腹痛くなってきた」
「ははは、大丈夫だって、ああ見えて口堅いから」
「そういう問題じゃなくてさ」
「ま、心配しなくても大丈夫だって。仁志は俺たちのこと応援してくれてるみたいだし。それに、明後日テストだし、そろそろ帰ろうか」
唇を尖らせた宮森が仕方なさそうにこくりと頷く。こういう顔をみると、少し安堵する。
俺だけが残念なわけじゃない。たぶん宮森も同じ気持ち。それだけで、冷えきった教室の温度が微かに上がったような気さえする。
夕陽が差し込む廊下を、昇降口に向かって歩く二人分の足音が響く。
隣の宮森がため息混じりに呟いた。
「あーあ。せっかく久々に二人きりだったのに……」
俺が言いたかったことを、さらりと言ってのける宮森は、俺なんかよりよっぽど強い。
何年も言えずにいた俺の気持ちを、引っ張りだしてくれたのだって宮森だ。
「テスト終わったらゆっくり会えるだろ?」
「その前に修学旅行あるじゃん」
「あー、そうか。宮森は沖縄だっけ?」
よくよく考えると、テストが終わってもゆっくり会えるのはまだ先だ。選択制の行き先のため、宮森の班は沖縄、俺は北海道で真逆。
気が合うのか、合わないのか。
俺たちはたまに、こうして全く噛み合わない時がある。
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