三日坊主にはなりません。今度こそ。

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ヨガ・バレエ・ハイキング・登山・パッチワーク・ピアノ・ボイストレーニング・絵画・陶芸・染物、世の中には本当にたくさんの習い事があるんですね。私は本当に驚いてしまいました。 知っている習い事、知らない習い事、数えたらきりがないですし、すべてを体験するわけにはいきません。もし全部を体験してから本格的に習おうと思ったら、人生がいくつあっても足りないでしょう。どうしてみんなは自分に合った習い事が見つかるのでしょうか。不思議でなりません。 「で、結局、何なら続けられそうなんだ?」 担任が呆れたように笑います。先生の手には私が今年の夏休みに体験した習い事のリストがありました。夏休み前に私は先生と約束したのです。何か習い事を始めると。 「何もありませんでした。どれも良いように思いますが、続けたいと思うものがなくて」 「続けている内に楽しくなるってこともあるけどな」 まだ三十前の男の先生で、熱心に生徒の相談に乗ってくれます。イケメンとは言えませんが、やわらかい笑顔が印象的な先生でした。男子も女子もこの若い担任を年の離れた兄や先輩のように慕っていました。 「夏休みまるまるかけて探したのに、残念だったな」 「ええ、はい」 ここで先生はふうっと息を吐いて、私ににこりと笑いました。前のめりになるのと同時に古い椅子がギシリと音を立てます。 私の心臓が、キレイな小魚が飛び上がるように小さく跳ねました。美しい森の奥にある静謐とした泉から飛び上がり、木々の合間から差し込む太陽の光に反射し小魚の鱗がキラキラ光っています。まるで美しいおとぎ話が始まるように、跳ねた心臓がトクトクと音を立てていました。 「先生はTOEIC講座の担当をしている。TOEICは役に立つがはっきり言って勉強は面倒臭い。大変だしな」 「はい」 ああやはりこうなってしまったかと私は、天を仰ぎたくなりました。何もやりたいことが見つからない私を心配して、先生があれこれ声をかけてくれるのです。もしも夏休みをかけてやりたいことが何も見つからなかったら、その時はー 「先生と一緒にTOEICの勉強でもするか」 「は、はい。約束ですので」 「よし、決まりだな」 先生がぱしっと膝を叩くと机の引き出しの中から、書類を数枚取り出します。先生のTOEIC講座はTOEIC試験をを受ける生徒が受講します。もちろんこれから私もその生徒たちにまじって勉強することになるでしょう。 「TOEICはほぼ毎月試験が開催されるが、試験を受けるのはいつでも良い」 「はい」 私は先生から渡された書類にざっと目を通します。保護者へ渡す書類と私自身が手元に置いておく書類です。何せTOEICは受験料と参考書代がいるので、まるっきり無料というわけにはいかないのです。 「実力をみるためにも、来月の試験をすぐに受けると良い」 「あの、私、英語のテスト30点ですけど、大丈夫ですか?」 ここで私は顔を赤くしました。本当に情けないことに赤点ギリギリでいつも切り抜けてきたのです。TOEICで良い点が取れるとは思えません。0点だったらどうしましょう。 「英語を苦手としている生徒も受験するから大丈夫だ」 がんばろうと言われて私は赤くなって小さくうなづきました。
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