七、孤独な天狗

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大天狗二体が、胴と腕を縛られ庭で月光を浴びている様は、なんともシュールだ。 結斗は腕を組んで柱に背を預け、少年天狗を見守っている。 楓は大天狗の前に立っていた。 「この地から出ていけ。さもなくば」 楓が脅すように錫杖をかざす。 「ふん。我々がこの程度で従うとでも思ったか」 水の効き目が薄れてきたのか、一瞬で縄が切れてしまった。楓はとっさに錫杖を振るうと、強風が大天狗を襲う。 「これしき造作もないわ!」 大天狗が双方同時に地を蹴り、楓に迫った。 「やめろ‼」 椋太はとっさに楓の前に飛び出そうとするが、結斗に止められてしまう。 「馬鹿! 死ぬ気か!」 「楓!!」 「僕は!! この地を、神守を守るんだ!!」 楓は忍ばせていた竹筒を投げた。大天狗の太刀で真っ二つに割れた筒が、天狗の足をぬらし、わずかに動きを鈍らせる。 「な、なに!?」 楓が突き出した錫杖は、大天狗の胸に深々と刺さっていた。 よくよく見ると、大天狗の一太刀は間一髪、楓の首筋をそれていたものの、もう一体の天狗の刃が、肩に突き刺さっていた。 楓の手から錫杖が離れた。 「くっ!」 胸に錫杖を刺したまま、大天狗は後退し地にひざをつき、吐血する。 「兄者! おのれ!」 楓の肩から刃を抜き、もう一体がとどめを刺さんと太刀を振りかざした。 「楓! 逃げるんだ!」 椋太が声をあげた時だった。楓の周りに強風が沸き起こり、天狗の太刀を大きく払った。 風の中心でゆっくりと楓は立ち上がった。刹那、その背から黒い双翼がはためいた。一体何が起こっているのだろう。椋太はあっけに取られながら成り行きを見守る。 楓は高く飛び上がり、大天狗二人を見下ろした。 「大天狗の名のもとに命じる。ここから立ち去れ!!」 楓の声が地上にとどろくと、雷が空を裂いた。大天狗は強風に耐えていたが、やがて風になぎ倒されると、その姿が漆黒の烏へと変わり、飛び立っていく。
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