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大天狗二体が、胴と腕を縛られ庭で月光を浴びている様は、なんともシュールだ。
結斗は腕を組んで柱に背を預け、少年天狗を見守っている。
楓は大天狗の前に立っていた。
「この地から出ていけ。さもなくば」
楓が脅すように錫杖をかざす。
「ふん。我々がこの程度で従うとでも思ったか」
水の効き目が薄れてきたのか、一瞬で縄が切れてしまった。楓はとっさに錫杖を振るうと、強風が大天狗を襲う。
「これしき造作もないわ!」
大天狗が双方同時に地を蹴り、楓に迫った。
「やめろ‼」
椋太はとっさに楓の前に飛び出そうとするが、結斗に止められてしまう。
「馬鹿! 死ぬ気か!」
「楓!!」
「僕は!! この地を、神守を守るんだ!!」
楓は忍ばせていた竹筒を投げた。大天狗の太刀で真っ二つに割れた筒が、天狗の足をぬらし、わずかに動きを鈍らせる。
「な、なに!?」
楓が突き出した錫杖は、大天狗の胸に深々と刺さっていた。
よくよく見ると、大天狗の一太刀は間一髪、楓の首筋をそれていたものの、もう一体の天狗の刃が、肩に突き刺さっていた。
楓の手から錫杖が離れた。
「くっ!」
胸に錫杖を刺したまま、大天狗は後退し地にひざをつき、吐血する。
「兄者! おのれ!」
楓の肩から刃を抜き、もう一体がとどめを刺さんと太刀を振りかざした。
「楓! 逃げるんだ!」
椋太が声をあげた時だった。楓の周りに強風が沸き起こり、天狗の太刀を大きく払った。
風の中心でゆっくりと楓は立ち上がった。刹那、その背から黒い双翼がはためいた。一体何が起こっているのだろう。椋太はあっけに取られながら成り行きを見守る。
楓は高く飛び上がり、大天狗二人を見下ろした。
「大天狗の名のもとに命じる。ここから立ち去れ!!」
楓の声が地上にとどろくと、雷が空を裂いた。大天狗は強風に耐えていたが、やがて風になぎ倒されると、その姿が漆黒の烏へと変わり、飛び立っていく。
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