六、花火と龍神

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「椋太さん!」 水の中にいるような余韻にぼうっとしていると、芽依の声が聞こえた。はっとして見やると、浴衣姿の芽依と、迷惑そうな顔をした結斗がいた。 「二人とも……」 「よかったぁ」 芽依が拍子抜けしたようにひざをついた。彼女に手を差しのべようとして思い出す。花火を見る約束をしていたのに。人気のない境内から、もう花火は終わってしまったのだと分かる。 「……ごめん、芽依さん。せっかく約束してたのに」 「ううん。それよりも椋太さんが無事でよかった」 芽依は笑顔で立ち上がる。 「お前いつからそんなになった」 「本当にごめん」 今回は責められても仕方がない。 「花火は見られなかったけど、町のほうには屋台が出てるらしいよ。よかったら一緒に行こう」 「わぁ!行きます!」 はじけんばかりの笑顔で、芽依はうなずく。 「そんじゃ俺は帰るわ。まったく人騒がせな」 結斗はさっさと踵を返す。その背に椋太は言う。 「ありがとう、来てくれて」 彼は何も言わず、去ってしまった。 「浴衣、似合ってるね」 椋太は芽依と連れだって歩き出す。 「あ、ありがとうございます……」 ぽつりと芽依は返す。 早く水瀬神社を出たかった。心が傾いてしまう前に。
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