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「椋太さん!」
水の中にいるような余韻にぼうっとしていると、芽依の声が聞こえた。はっとして見やると、浴衣姿の芽依と、迷惑そうな顔をした結斗がいた。
「二人とも……」
「よかったぁ」
芽依が拍子抜けしたようにひざをついた。彼女に手を差しのべようとして思い出す。花火を見る約束をしていたのに。人気のない境内から、もう花火は終わってしまったのだと分かる。
「……ごめん、芽依さん。せっかく約束してたのに」
「ううん。それよりも椋太さんが無事でよかった」
芽依は笑顔で立ち上がる。
「お前いつからそんなたらしになった」
「本当にごめん」
今回は責められても仕方がない。
「花火は見られなかったけど、町のほうには屋台が出てるらしいよ。よかったら一緒に行こう」
「わぁ!行きます!」
はじけんばかりの笑顔で、芽依はうなずく。
「そんじゃ俺は帰るわ。まったく人騒がせな」
結斗はさっさと踵を返す。その背に椋太は言う。
「ありがとう、来てくれて」
彼は何も言わず、去ってしまった。
「浴衣、似合ってるね」
椋太は芽依と連れだって歩き出す。
「あ、ありがとうございます……」
ぽつりと芽依は返す。
早く水瀬神社を出たかった。心が傾いてしまう前に。
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