七、孤独な天狗

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「釣りでも行ってきたのか」 並べられた魚料理の数々に、結斗は目を丸くしている。イワナの炊き込みご飯、焼き魚、魚のから揚げに煮物。 「わぁすごい! これ全部椋太さんが作ったんですかぁ? おいしそう」 芽依は手を合わせて感嘆の声を上げた。 「いいんですか? 私までこんなにごちそうになっちゃって」 「うん、ちょっと釣りすぎちゃって」 厳密に言えば、楓が、である。せっかくなので、芽依も夕食に呼んだのだった。 「どんどん料理の腕が上がっていくな」 八尋も感心したようにテーブルを見つめる。 「八尋さんが呼んでくれた天狗の少年に会ったんだ」 椋太は楓のことについて話した。 「今度は天狗さんですか? いい子そうでよかったです。でも無理しないでくださいね。椋太さんに何かあったら、私」 芽依が顔を曇らせた。 「大丈夫だよ。楓くんは乱暴なことはしないと思うし」 「で、どうすんだよ。そのガキじゃ、必要な霊力を分けられないんだろ」 「……うん」 たしかに、結斗の言う通りだ。楓があまりに寂しそうだったので、放ってはおけなかった。でもそれは、結局偽善でしかないのかもしれないし、霊力を分けてもらう方法にもならない。 「だいたい何の策もなしに近づいて、痛い目にあったらどうする。相手は子供とはいえあやかしなんだ。それに……霊力の結晶を手に入れられなかったら、どうなるか分かってんだろ」 「え……どうなっちゃうんですか、椋太さん」 芽依は心配そうに椋太を見た。彼女にはまだ話してなかった。龍神を目覚めさせなければ、死ぬのだということを。もう秘密にしておくのは無理だろう。椋太はそのことを芽依に告げた。 「そんな……」 泣き出しそうな顔をする芽依。八尋も沈痛な面持ちでうつむく。 「八尋。他に霊力を強くする方法はないのか」 結斗が問う。 「龍神の地に古くから住まう天狗でなければならない。そうでなければ神守との波長が合わないのだ。まさか、この地をなわばりにしていた大天狗がもういないとは。……私にもっと、椋太を助ける力があれば――」 急に空気が重くなってしまった。 「やれるだけやってみるつもりだから。きっとなんとかなるよ。まだ、夏が終わるまでに時間あるし」 椋太は戸惑ってしまう。今まで、こんなに心配してもらったことがあっただろか。何だか信じられなくて、とても不思議な気分だ。 「いよいよとなったら、どんな手を使っても龍神をたたき起こせよ」 「そうだよ、椋太さん。私も力になるから」 気迫、もしくは殺気のこもった結斗の視線と、うるんだ芽依の視線。八尋からは切なげな視線を浴びながら、椋太はただうなずくしかなかった。
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