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その日から、楓も羽月家の食卓を囲むこととなった。手当てをし、部屋で休ませていたが、先ほど無事目を覚ました楓は、居心地が悪そうに結斗と顔を突き合わせていた。
結斗も特に口をきかない。テーブルに頬杖をついて、胡散臭そうに楓を見ている。気の毒になった椋太は、八尋とともに急いで料理を運び終え、彼の隣に座った。
楓はTシャツにズボン姿だ。服は椋太のを貸してあげた。両翼を失った傷はすぐにふさがったが、痛々しい跡が残っていた。
こうしてみると、普通の中学生のように見える。
「で。喧嘩に負けて、のこのこ家にやってきたわけか。天狗のくせに弱いのかよ」
「……ごめんなさい」
しゅんと楓はうつむく。
「結斗。そんな言い方しないでよ。楓はがんばったんだから」
結斗は一部始終を見ていないから好き勝手が言えるのだ。あの天狗たちの強さは尋常ではなかった。恐れることなく立ち向かっただけでも勇敢だ。
加えて翼まで失ってしまい、彼の痛手は凄まじい。楓の気持ちを想像するだけで胸が痛い。
「お前人のこと心配している場合か。どうすんだよ、これから。霊力の結晶もないんじゃあ、龍神だって起こせねぇし……何よりお前が死ぬんだぞ」
楓はがばっと顔を上げる。
「どういうこと?」
「いろいろあってね。龍神の加護がないと死ぬみたいなんだ。龍神が眠ったままだと、加護を受けられない」
「……僕は、神守になるために霊力が必要なのかと思ってた。師匠からもそう聞いていたんだ。でも龍神は長い間眠ったままだし、さほど重要なことだとは思ってなかった……」
楓は視線を落とす。
「師匠が死んでからは、鍛錬を怠っていた。途方に暮れて、いじけてたんだ。ちゃんと、もっと強くなろうとしていれば、霊力の結晶だって作れたのに」
楓がひざに置いた手をきつく握りしめたのが分かった。
「楓のせいじゃないよ。ずっと神守はいなかったんだから。何とか方法を考えるから。あんまり思いつめないで」
とはいえ、どうすればいいかまったく見当もつかない。また食卓が重苦しくなってしまった。
「ほら、大丈夫だから。ちゃんと食べて、いっぱい栄養つけて、傷を治さないと」
「そうだ、楓。私も椋太の味方だ。共に方法を考えよう。きっと希望はある。そのためにも、よく食べ精をつけることだ」
「おかんが二人……」
結斗が呆れたようにぼそりと言い、暗雲が少しだけ晴れたのだった。
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