七、孤独な天狗

5/9
49人が本棚に入れています
本棚に追加
/75ページ
その日から、楓も羽月家の食卓を囲むこととなった。手当てをし、部屋で休ませていたが、先ほど無事目を覚ました楓は、居心地が悪そうに結斗と顔を突き合わせていた。 結斗も特に口をきかない。テーブルに頬杖をついて、胡散臭そうに楓を見ている。気の毒になった椋太は、八尋とともに急いで料理を運び終え、彼の隣に座った。 楓はTシャツにズボン姿だ。服は椋太のを貸してあげた。両翼を失った傷はすぐにふさがったが、痛々しい跡が残っていた。 こうしてみると、普通の中学生のように見える。 「で。喧嘩に負けて、のこのこ家にやってきたわけか。天狗のくせに弱いのかよ」 「……ごめんなさい」 しゅんと楓はうつむく。 「結斗。そんな言い方しないでよ。楓はがんばったんだから」 結斗は一部始終を見ていないから好き勝手が言えるのだ。あの天狗たちの強さは尋常ではなかった。恐れることなく立ち向かっただけでも勇敢だ。 加えて翼まで失ってしまい、彼の痛手は凄まじい。楓の気持ちを想像するだけで胸が痛い。 「お前人のこと心配している場合か。どうすんだよ、これから。霊力の結晶もないんじゃあ、龍神だって起こせねぇし……何よりお前が死ぬんだぞ」 楓はがばっと顔を上げる。 「どういうこと?」 「いろいろあってね。龍神の加護がないと死ぬみたいなんだ。龍神が眠ったままだと、加護を受けられない」 「……僕は、神守になるために霊力が必要なのかと思ってた。師匠からもそう聞いていたんだ。でも龍神は長い間眠ったままだし、さほど重要なことだとは思ってなかった……」 楓は視線を落とす。 「師匠が死んでからは、鍛錬を怠っていた。途方に暮れて、いじけてたんだ。ちゃんと、もっと強くなろうとしていれば、霊力の結晶だって作れたのに」 楓がひざに置いた手をきつく握りしめたのが分かった。 「楓のせいじゃないよ。ずっと神守はいなかったんだから。何とか方法を考えるから。あんまり思いつめないで」 とはいえ、どうすればいいかまったく見当もつかない。また食卓が重苦しくなってしまった。 「ほら、大丈夫だから。ちゃんと食べて、いっぱい栄養つけて、傷を治さないと」 「そうだ、楓。私も椋太の味方だ。共に方法を考えよう。きっと希望はある。そのためにも、よく食べ精をつけることだ」 「おかんが二人……」 結斗が呆れたようにぼそりと言い、暗雲が少しだけ晴れたのだった。  
/75ページ

最初のコメントを投稿しよう!