七、孤独な天狗

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それから数日雨が続いた。縁で膝を抱えて庭を眺めている楓の隣に、椋太は座る。楓はもとの水干姿だ。和服のほうがしっくりくるのだそうだ。 「傷は痛む?」 「ううん。平気」 静寂に雨音が優しく響いていく。 「……最近、雨ばかりだな」 「その方がいい。あいつらは神守である君のことも狙ってる。龍神が目覚めれば、大天狗だって無事ではすまないから。あいつらは師匠のことだけじゃない、龍神の力を恐れてる。だからここの雨は、よそ者のあいつらにとって針みたいなものだ。だから、龍神と深くかかわる神守を殺そうとしてくるはずだ」 天狗二人が去り際に言っていたことを思い出す。 「雨がやんだら、きっと襲ってくる。なわばりが広がれば、よそから子分天狗が大勢やってくるかもしれない。あいつらは師匠とは違う。人に仇名す輩だ。今度こそ、僕が倒さないと。ここに住まう人間たちを災厄から守ること。それが師匠の信念だった。僕も、守るんだ」 楓は錫杖をぎゅっと握った。 とはいえ、相手は大天狗二人だ。楓だけでは太刀打ちできないそうもない。彼が命を落としてしまうことは避けたい。 椋太はしばし考え、口を開いた。 「真正面から立ち向かわなくても、勝つ方法。戦わずして勝つ方法だってある」 「どうやって……」 椋太はじっと雨を見つめた。 「あの大天狗たちは、龍神の水が苦手なんだって言ったね。――なら、策はあるよ」 椋太は大きくうなずいてみせた。  
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