七、孤独な天狗

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大天狗が去ると、楓は軽やかに地に降り立った。 「楓……一体何がどうなってるの」 結斗から解放された椋太は、すぐに駆け寄る。 「どうやら、大天狗になれたみたいだ」 楓は落ち着いていた。少し大人びたようにも見える。 「あの天狗たちは」 「また、烏に戻って一から修行しなおしだ。天狗になるまで、あと数百年はかかるかな」 そう言って、楓は無邪気に笑う。その顔はやはり、いつもの楓だった。 「神守のおかげだよ。君が、勇気をくれたんだ」 「あーあ、やっと終わったか。水浸しの部屋、片づけとけよ」 結斗はあくびをしながら部屋に戻っていく。 「あー、そうだった! 」 「僕も手伝うよ」 辺りには元の静寂が戻るのだった。 翌朝、椋太は水瀬神社の欅の下で楓を待っていた。朝の空気は特に清麗で気持ちがいい。 「椋太、お待たせ」 楓が黒い翼をはためかせ、目の前に降り立った。やっぱり、前よりも頼もしくなったように見える。 「手を出して」 椋太の手のひらには、翡翠色の石が収まっていた。 「これは」 「風の霊石だよ。大天狗になったから、作れるようになった」 手の平の石は、やがて溶けるように消えた。椋太の中に、風が廻っていく感覚がした。 「ありがとう、楓」 「うん。これで、龍神が目覚めるね」 楓からはもう、以前のような悲壮感は消えていた。 「さて、僕はそろそろ行かなきゃ。師匠のお墓を汚してしまったし、ちゃんときれいにしないと。――今度は師匠の代わりに僕がこの地を守っていくよ」 「楓。またいつでも会いにきて」 「うん。椋太の料理は美味しいからね! それじゃ――また」 楓は誇らしく笑うと、黒い双翼を翻した。風が舞い上がるかのごとく、楓はあっという間に見えなくなってしまった。陽光が眩しく、後を照らしていた。 椋太は社を見遣った。これで、必要な霊力は満たされたはずだ。 (もうすぐだ。もうすぐ、龍神に――)
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