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羽織袴を身にまとうと、さすがに緊張した。これから、龍神を目覚めさせにいく。
こわいのは、自分の気持ちだ。龍神に再び会ったときに、はたして心を揺り動かされずにいられるだろうか。
(何があっても、心奪われてはいけない)
そう自分に言い聞かせ、家を出た時だった。向こうから芽依が駆けてくるのが見えた。
「よかったぁ……間に合った!」
「芽依さん!……ありがとう、見送りに来てくれたんだ」
息を急いで整えながら、芽依はポケットから何かを取り出した。
「……椋太さん、これ」
手のひらにあったのは、お守りだった。
「龍神様のところに行くのに、お守りなんて変かもしれないけど。――ちゃんと、帰ってきてください。待ってますから」
花開くように、芽依は微笑む。
「ありがとう。心強いよ」
「私、まだ伝えたいことが山ほどあるんです。帰ってきたら、言います。絶対に言いますから。だから」
芽依の頬に涙が伝った。
「……絶対に帰って来て」
芽依は涙を拭い言葉を詰まらせる。
彼女を見て、気づかされた。大切なことを忘れそうになっていたことに。
(僕の帰るべき場所はここだ)
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