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次に気が付くと、白い砂の上に横たわっていた。
ここは。体を起こす。青い空がみえる。空と白い陸地。それ以外、何もない。音のない辺りに、ざっと砂を踏みしめる音がした。
緋色の着物が目に鮮やかに写る。椋太は立ち上がった。不思議なことに、着物は少しも濡れていない。
「神守よ」
龍神が言う。その目は、しっかりと椋太を見つめていた。
「誰も足を踏み入れることがない場所へ、共にゆかぬかと、八尋に問いかけたことがある。だが八尋は言った。人として、己から逃げず、生き切りたいと。あの時の八尋と、同じことをそなたは言った。八尋は、もう――いないのだな」
龍神は優しい表情で、美しく目を閉じた。
「今なら、聞こえる。そなたを待ち焦がれている声が――」
龍神は目を開けると、それは美しく椋太を見つめた。
「椋太、そなたが背負った罪をゆるそう」
龍神は椋太の手を取った。手から手へ、濃紫の霧が移っていくのが見えた。霧が龍神の手に触れると跡形もなく消えた。
「椋太、たとえそなたがどこにいても。村を離れたとしても。私はここから見守っている。羽月家を、人々を」
手を離すと、龍神は言う。
「さて、運命の流れが変わった。ここから先はすべて、そなた次第だ。さぁ戻るがよい、己の道へ」
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