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君のことが好きだった。君と、君と過ごした全ての時間を愛してた。
どんなことだって隠し立てなく伝えてきた君に、まだ教えてあげられていないことがひとつだけある。
赤ちゃんの性別、男の子だったよ。
私がそれを伝えたら、君がどんな反応をするか楽しみだった。男の子だったらこうしよう、女の子だったらこうしたい。そんな想像を、この頃は毎日のようにふたりで話し合っていたから。
どんな漢字をいれるのか、どんな響きが耳に馴染むか。赤ちゃんの名前の相談だってしたかった。
産まれてきた赤ちゃんに会った君が、私の予想通りに号泣するのを見て笑いたかった。
君と一緒に、産まれてくる子の成長をずっと見守っていきたかった。
だけど、それはもう叶わない。
ジリリリリ、と目覚まし時計がけたたましい音をたてる寝室で、私はそれをかき消すほどの大声をあげて泣いた。
声が掠れるくらいに。喉が腫れるくらいに。
もしかしたら、君が気付いてこの音を止めてくれるかもしれない。そのことだけを、ひたすらに願って。
けれどそんな願いも虚しくいつしか私の声は枯れ、目覚まし時計の音も鳴り止んでいた。
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