君に告げる音

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◆ こんなことを言うと少し恥ずかしいけれど、君との出会いは割とロマンチックだったと思う。 読書が好きな私は、週末になると必ず近くの市立図書館に通っていた。そこの新書コーナーで、偶然、私と同じ本を手に取ろうとしたのが君。 図書館には何度も通ってきているけれど、誰かとそんな展開になったのは生まれて初めてで驚いた。 触れ合った指先にお互い戸惑って、お互いにペコペコしながら本を譲り合い、譲り合ったままどちらも全く折れなくて。そんなことを五分も続けているうちに可笑しくなって、どちらからともなく吹き出した。 くしゃりと表情を崩して笑った君の顔は、今まで出会った誰よりも魅力的だった。 「実は他にも借りたい本が貯まってるんだ。だから、今回は君が借りてよ。その代わり、来週の同じ時間に返しに来てくれる?そうしたら、僕がその本をすぐに借りられるから」 君はそう言って、とてもスマートに本を譲ってくれた。その優しさに、私は素直に頷いた。そのときにはもう、君に惹かれていたと思う。
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