新田はるなの場合

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 久しぶりのキス。だけど、あの日とはまるで違った。 「俺、ヤバイかも……」  言うなり今度はもっと深いキスをした。  ゆっくりとベッドに倒れ込み、お兄ちゃんを見上げる。 「お兄ちゃん私……」  言いかけたところで、「分かってるよ」、そう言って優しく頭を撫でてくれた。 「私、お兄ちゃんが初めてだよ」 「お前さ、この状況でそういうこと言うのずるいから」 「本当だよ、これは、本当だから。嘘じゃないよ」  言いながらも、どこか不安があった。 「分かってる」 「お兄ちゃんが初めてだから」 「だから、何回も言わなくていいから」 「お兄ちゃん、大好きだよ」  ようやく好きが言えたことに、ほんの少しだけほっとした。けれどそれもつかの間で、お兄ちゃんが小さく舌打ちをするから、わけが分からなくなる。 「お前さ、マジでちょっと黙ってろ」  「なんで?」と言いそうになり、下唇をきゅっと噛んだ。 「悪いけど、俺の方がお前のこと好きだからな。そこ、勘違いすんなよ。分かったな?」  黙っていると、「返事!」、大きな声にビクッとなる。声が裏返るのもお構い無しに、「はい」と答えた。  たぶんこれは、怒られているのではないはずだ。  大きく一呼吸つくと、枕元に置いていたリモコンを取って部屋の電気を薄暗くした。次の瞬間、シャツをめくり上げられ、反射的にその手を止めようとした。けれどお兄ちゃんの手は、止まることはなかった。丁寧にシャツを脱がしてくれたかと思うと、自分のティーシャツは雑に床に脱ぎ捨てた。  頭が真っ白だった。  感情をどうやってコントロールすればいいのか分からず、ただただお兄ちゃんにしがみつくことしかできなかった。 「俺もう……」  その言葉が合図のように、色んなものが一気に押し寄せてきた。  もうずっと前から喉はカラカラで、かすれた声でお兄ちゃんのことを呼ぶ。 「はるな──」  苦しそうに私の名前を呼んだあと、倒れるようにして私の体の上に覆い被さってきた。  上がった息を整えるように、大きく息をついている。 「大丈夫か?」  覗き込むようにして見つめられ、小刻みにうなずいた。 「ごめん俺、優しくできなかったかも」  今度は首を横に振る。  隣に体を移動させ、並んで天井を見上げる。  沈黙が、心地良いと思えた。 「はるな」  顔だけを横に向ける。すると、体をぴたりとくっつけるなり触れるだけのキスをした。 「体ばっか大人になりやがって……」 「え?」 「独り言……」 「お兄ちゃん?」  言葉の代わりにキスをするから、色んなことがどうでもよくなってしまう。 「大好きだよ、お兄ちゃん」  夢なら覚めませんように、そう思わずにはいられなかった。  完
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