ゲルゲーム

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 街は着実に臭くなっていた。この事実に気づいている人間はごくわずかなのだろうが、嗅覚の鋭い私は、もうずいぶん前から日に日に匂いが濃くなっているのに感づいていた。  1年先輩のボランティア部の部長も私と同じ種類の人間だったようで、もう4年以上も前から、こうした大気の異変に気づいていたようだった。 「これで準備は完了だ。あとは街に出て実行するのみ」  この6月に入部したばかりの私のスマホに『クリーンアップ』という名のアプリを入れてくれた部長は、液晶画面を私の顏に向けると、長机のうえに片肘をつき、ニヤッと意味ありげに笑って長い足を組んだ。 「このアプリって、誰が作ったんですか?」  部長の手からスマホを受け取った私は、特に興味があったわけでもないが、何となく訊いてみた。 「ワタシだけど」  部長は男子だが、どういうわけか自分のことを「ワタシ」と呼ぶ。ちょっと変わった性格だが、もしかするとこの高校のどの教師よりも明晰な頭脳の持ち主かもしれないという印象を、会ったその日に私は抱いていた。  だから、アプリを開発したのが部長であると告げられても、疑うところはひとつもなかった。
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