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「何度も言わなくてもわかりましたよ」
「トラウマで未だに彼氏できないんだから」
「トラウマだけのせいですかねぇ」
すぐさま光瑠がツッコミを入れる。落ち着いたというより冷たいくらいひんやりした鋭い声色だった。
「あれ、お二人は付き合ってるんじゃないんですか」
「まさか」
李々葉と光瑠が同時に答えるので、旋律のような響きが部室内に木霊した。
「なるほど、じゃあ、俺と付き合います?身長ちっちゃくて申し訳ないですけど」
李々葉と光瑠が目を丸くする。
「いや、別に身長は気にしないけど……元カノが忘れられなくてここに来たんじゃなかったっけ?」
「ですね。でもお互いリハビリがてらいいかなと。先輩は距離置こうとか、曖昧なこと言わずにしっかり別れ話してくれそうですし」
ゴ、ゴホン!
光瑠がわざとらしい咳する。
「まあ、落ち着きなよ。辛いのはわかるけど。鈴木くん、早まっちゃいけない。人は弱っていると近くのものなら藁でも掴みたくなるものだが、そんな軽い気持ちで部長と付き合ってもいいことはないよ?」
「あら、私なら軽い気持ちで全然オーケーだけど。もうずっと彼氏いなくてさみしすぎだもん。前向きに考えようかな~」
先ほどまで凛としていた光瑠が予想以上に動揺している姿を見て、思わずニヤッとする雄大。心の中にあったもやもやはもうほとんどなく、むしろ霧が晴れたようにスッキリしていた。
「また、ここに来てもいいっすかね?」
「まさか……入部希望!?」
「それはないですけど」
「違うんかーい」
李々葉は机の上にバタンと突っ伏した。
その瞬間、光瑠がこちらをちらっと見てペロッと舌を出して意地悪そうな顔をした。思ったより小さな舌は、美しいところだらけの光瑠の中で唯一かわいらしい部分だと雄大は思う。
と同時に、どうやらこの美しい先輩に嫌われてしまったらしいな……と曖昧な笑顔を浮かべた。
(了)
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