2人が本棚に入れています
本棚に追加
姿だけでなく、漆黒に染まる髪の毛、その艶、さらに極めて端正な顔立ちで、男の雄大から見ても惚れ惚れするほど綺麗だった。透き通る素肌が滑らかで瑞々しい。鼻が細く尖っていたが、顎もシャープなのでバランスがよく、唇が薄いのも気にならない。先ほどの女性には申し訳ないほど、彼は美しかった。
「ごめんねぇ、どこにでもある顔してて」
女性は全てわかっていると言わんばかりに、わざとらしく言葉を放つ。
「いや、そんなことは……」
雄大が女性の顔をまじまじと見つめる。茶髪のミディアムロングでフックタイプの長いピアスをぶら下げており、そのピアスについている青い宝石に負けてしまいそうなほど、目立たない顔をしていた。大学構内を歩けば一日三人は見かけそうなほどありふれた顔をしている。
(そんなことは……あるけどどうしよう)
雄大が言葉に詰まっている姿を見て女性は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「ね、遠慮しなくていいから。もう慣れてる。彼はものがたり屋サークルの副部長で二年生の峯岡光瑠くん。私は部長で三年生の恩藤李々葉。君は一年生かな?」
「はい、一年生の鈴木雄大です」
「学部は?」
「経済です」
「何かサークル入ってる?」
「入ってます。週三でバスケしてます」
「リア充だなあ」
李々葉がどこか遠くを見つめるように目を細めた。
「リア充ならこんなとこ来ませんよ」
「確かに!」
李々葉はケラケラと大口を開けて笑った。
「部長、話を進めて下さい」
光瑠が抑揚のない声で李々葉をコントロールする。机の上に置いた大きな手の下にはノートと分厚い教科書のようなものがあった。大学の講義の宿題の最中のようだ。細く長い指も怖ろしく白くてこの世のものには見えない。例えるなら蜘蛛のような……蜘蛛というと不気味で気持ち悪い印象だがそういうのとはかけ離れた尊さしかないのに、表現するのならそれはまるっきり蜘蛛なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!