ものがたり屋、はじめました!

4/6
前へ
/6ページ
次へ
***  今となってはもう昔の話。東城国(とうじょうこく)というところに、 明頸演現王(みょうきょうえんげんおう)という王様がいた。王様には善生人(ぜんしょうにん)という息子がおり、たいそう凛々しく勇ましい男前で、自慢の皇子だった。     皇子に妻がいないことを心配していたが、ある日善生人は西城国(さいじょうこく)阿就多女(あしゅくにょ)という美しい姫がいると聞き、自ら海を渡って何日もかけて会いに行った。何度も命を危ぶまれるが、作っていた観音像のおかげであろうか。何とか西城国へとたどり着いた。  西城国の城門の前にいる善生人を見かけた阿就多女は、あの美しいものは誰かと付き人に尋ねると、東城国の皇子だという。うれしくなった姫は彼をすぐに寝所へと招き入れた。  西城国の王は姫の寝所にいる男が誰かと訝しむが、東城国の皇子、善生人だと聞くとたいそう喜んだ。まもなく姫は懐妊したが、継母は善生人が気に食わない。王様に見つからないように二人をいじめ、ろくな食物を与えなかった。  今後を心配した善生人は、国へ戻って財を持ち帰る決心をした。 「行かないで下さい。どうか私を一人にしないで下さい。この身ごもった子はどうやって育てていけばよいのですか。父親のいない子どもにするのですか」 「必ずや帰ってこよう。今のままでは満足に子を育てられない。我が国に帰れば多くの財があるから、それを持ち帰れば家族で不自由なく生きていける」  引き止める阿就多女を優しくなだめてから、一ヶ月かけて東城国へと帰った。  その間に、姫は双子の皇子を産み落とした。しかし何年待っても善生人は帰ってこない。仕方なく、子を連れ善生人が以前流れ着いたという海辺へと旅に出た。  善生人以外の夫は考えられない。息子らにそのことを伝え、しばらく待っている間に重病にかかってしまう阿就多女。仕方なく息子たちに、ここで待ち続けそれらしき人物を見つけたら、自分たちは阿就多女と善生人の息子だと言いなさい、と言い残して死んでしまう。  ほどなくして、大量の財宝を持った善生人が帰ってくるが、初めて息子たちと対面し、妻が亡くなったことを聞き泣き崩れる。 「阿就多女よ、すまない、すまない。お前たちのために多くの財宝を持ち帰ったのに全く意味のないことになってしまった……」 ***
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加