プロローグ

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   僕は意識するでもなく、手慣れたようにカバンからカギを取り出してドアを開ける。  ドアを開けて部屋の中に入ると、今日も一日乗り切った事を実感して気が抜けてしまったのか、口から意味のない言葉を放つ。 「ただいま」  そう言って僕は家に入るが、その言葉には当然のごとく何の返答もなく、電気の消えた部屋の中からはただ静寂だけが返ってくる。 「はぁ」  そんな当たり前のことに、僕は酷く虚無感を覚えてため息をこぼす。  靴を丁寧に脱ぎそろえるのも億劫になり、足で靴を乱雑に脱ぎ捨て居間に向かって歩き出す。  わざとらしく鳴らすドサっという音と共に、僕は倒れる様にして寝室兼リビングの椅子に腰を掛ける。  安物のオフィスチェアーがギシギシと音を立てるのもお構いなしに、背もたれにもたれかかりながら、今日一日ため込んだ虚無感や、言いようも無い悲しみを吐き出すようにして、また一つため息を吐く。  少し休憩をしていると、来ていたスーツを邪魔に感じてしぶしぶ席を立って、スーツを脱いでハンガーにかけに行く。  スーツを脱いで席に戻ると、僕はいつも通り近所のスーパーの袋から、半額のシールが貼ってある冷え切ったお弁当と、缶に描かれているような、冷えて水滴が張り付く絵とは違って、外の気温で生ぬるくなった缶ビールを机に並べて、目の前に設置してあるデスクトップパソコンの電源を入れる。  パソコンの起動音を聞きながら、手も合わせずに割り箸を二つに割ってご飯を食べ始める。 (そういや、いつから「いただきます」も言わなくなったんだっけ)
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