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プロローグ
月夜の晩。ジメジメとした湿気の中に、スッと吹き抜ける夜風が少し涼しく感じられるようで、蒸れるように生暖かくも感じるような、そんな暗く暑い八月の平日。
僕は仕事で疲れ切った体を、残った気力で無理やり動かすようにしながら、住んでいるマンションに帰るべく足を進める。
(今日は運でも悪かったのだろうか)
僕は足を動かしながら、地面を見つめてそんなことを考える。
何故かはわからないが、今日はいつも温厚な課長が、少し…いやかなり、機嫌が悪かったのだ。
そのせいで職場の空気は嫌に重たく、休憩の時間に部署の外に出た時は、心が救われたようにまで感じた。
しかし、そこで気が抜けてしまっていたのか、入社5年目にもなって初歩的なミスをしてしまった。
いつもなら、そんなミスを起こさない僕は「気が緩んでいるのか!」と課長に叱られてしまった。
それこそ失敗をしてしまった僕が悪いのだ。だから僕は何も言えない、でも、課長も課長だ。
自分がその日不機嫌だったからとって、お前はそこがダメなのだと、まったく関係の無いことまで言う必要もなかったじゃないか。
ただ、僕が今日は不運だと思っているのは、それだけではない。
いつも帰り際にお弁当を買う馴染みのスーパーでも、疲れていたからか、それとも、ミスがあって落ち込んでいたからかは分からないが、僕は少しボケっとしていて、財布の中から小銭をぶちまけてしまい、拾っている間は、恥ずかしい思いまでしてしまった。
誰に言うでもないが、そんな愚痴を心の中で踏みしめながら、ただ淡々と足を動かし続ける。
スーパーの袋を片手に黙々と歩き続けていると、ふらふらになりながらも、やっとの思いでマンションの一室の前に着く。
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