訪問者

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~訪問者~ マンションの呼び鈴が、理沙の目を覚まさせた。 今日はせっかくの休日、昼前までは寝ていたかったのに。 昨日の晩は、思わずお酒を沢山飲んでしまった。 仕方がない、仕事を早く切り上げて挑んだ合コンが大外れだったのだ。 一緒にいった良子は、市役所勤めの公務員という事で喜んでいたが、理沙にとっては、とにかく酷かった。 まずは見た目 髪の毛はギトギト、歯も磨いてないんじゃかいかと思うくらい黄ばんでいたし。 一番マシな顔の男は、服装が酷かった。 35歳にもなって、母親が選んでいるのではないかと疑うレベルの幼稚な服装だった。 次に話 とにかくつまらない。 男がよくする若いころのヤンチャ自慢の方がまだマシなくらい面白くなかった。 オチも何もなく、今日は〇〇があったとひたすら続けるだけ。 小学生の作文の方がまだ可愛げがあって面白いわ。 それでも、安定をとれるならと良子は言ってたけど、流石に許容できないレベルだ。 極めつけは割り勘。 もう最低という言葉しか出てこなかった。 その後、帰宅後のお酒が進んでしまった事は言うまでもないであろう。 呼び鈴が再び鳴り、昨日の回想をしていた理沙は現実に戻ってきた。 そうだった、忘れてた。 理沙はベッドから起き上がり、壁にかかったモニターのボタンを押す。 モニターには、警察官が映し出されていた。 「はい。」 ぶっきらぼうに言う。 「お忙しいところ、すみません、東署の結城と言います。」 警察官は画面越しに頭を下げた。 「ちょっとした事件の調査をしていまして、昨夜の夜23時頃なんですが、こちらにご在宅でしたか?」 警察官は何か聞き込みをしているようだ。 23時頃、理沙はすでに自宅で泥酔状態だったはずだ。 「居ましたよ、お酒を飲んでいたのであまり記憶が無いですけど。」 理沙の言葉を聞いて、警察官の表情が少しだけ強張ったように感じた。 「そうでしたか、何か普段と違うような事は無かったですか?」 「よく覚えていませんが、無かったと思います。」 警察官の表情を見て、ダラダラと返事していた理沙は少し背筋を正した。 「ちなみに、お一人でいらっしゃいました?誰か一緒にいたとかではなくて。」 理沙はムッとした。 「女が一人で部屋でお酒を飲んでました、悪いですか。」 「いえいえ、そういうつもりではなかったのです、すみません。」 警察官は焦って、画面越しに頭を下げた。 「まぁいいですけど、何かあったんですか?」 理沙の口元はまだへの字口であった。 しかし、警察官の次の言葉に、驚きの表情を浮かべた。 「実は、昨晩にこのマンションで殺人事件がありまして、聞き込みをさせてもらっているんです。」 合コンの失敗でやけ酒している時に、そんな事が起こっていたなんて。 しかも聞き込みして回っているという事は、犯人はまだ捕まっていないのでは。 「・・・ちなみに犯人は捕まったんですか?」 理沙は恐る恐る聞いてみた。 「いえ、まだ目撃情報もなく、何もわかっていない状態なんです。」 警察官は申し訳なさそうに答えた。 犯人がまだ近くにウロウロしているのであれば、気軽に外に出る事も出来ない。 今日は良子とランチに行く予定であったが、これはキャンセルした方が良さそうだ。 「それは・・怖いですね。」 「はい、申し訳ありませんが、近隣住人の皆様は、外出を控えて、施錠の徹底をお願いします。」 「ちなみに、被害があったのはどこの方ですか?」 理沙の部屋の隣とかであったら、それこそ鳥肌ものだ。 「詳しい状況は、まだご説明できないんですよ。」 「隣とかではないですよね?」 「はい、お隣などではないです。」 それを聞いて少しほっとした。 しかし、殺人事件の犯人が野放しである事には変わりない。 しっかりと鍵をかけないと。 「わかりました、施錠をしっかりするようにします。」 「ご協力感謝します、また見覚えない男を見かけた場合などはすぐに東署へ連絡を下さい。」 警察官は再び頭を下げて、去っていった。 理沙は携帯電話を手に取り、良子へ電話をかけた。 「もしもし、良子?」 「理沙、どうしたの?ランチのお店決まった?」 「それどころじゃないの、私のマンションで殺人事件があって、今警察が来たのよ。」 電話で良子と話しながら、玄関の錠がかかっているかを確認する。 念のため、普段はしないチェーンロックまでかけた。 「え?大丈夫なのそれ?」 「犯人まだ捕まってないんだって、だから外にでるの怖いのね。」 「了解、今日のランチはキャンセルね。」 良子は察しが良くて助かる。 「それで、どこの人が殺されたの?」 良子の声は、理沙を心配するというよりも興味が湧いているように聞こえた。 「それは教えてくれなかった。目撃情報もなくて何もわかっていないみたい。」 そう答えた理沙は、ハッとする。 通話が繋がったままの携帯電話を放置して、大急ぎで窓などの施錠を確認しはじめた。 心拍数が上がっていくのを感じる。 そして、理沙の頭の中には、先ほどの警察官の最後の言葉がこだましていた。 見覚えない『男』を見かけた場合などはすぐに東署へ連絡を下さい。 完
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