3, 死神一族

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3, 死神一族

「あ……! アストリ様! お勤めご苦労様です! あの、これ……。」 偶然を装って俺の前に現れたのは女三人。 真ん中の女が一人、俺にお菓子の入った袋を手渡してきた。 「えと、あの、お、お口に合うか分かりませんけどっ……!」 たどたどしく喋りながら震える手をぐっと突き出す。 (ま、ここは有難く頂いておくか。愛想は良くした方が得だからな。) 「ありがとう。丁度小腹が空いてたんだ。でも、これからは早く帰りなね。僕の仕事はいつ終わるか分からないし、この時間は暗いからね。お嬢さんたち。」 俺はとびきりの笑顔を振りまいてその場を離れる。女三人は溶けたような声を上げてキャッキャと騒ぐ。 「くーっ! イケメンは辛いねぇ!」 俺の肩をガッと掴んできたのは同僚のクロエ。その光景に先程の女三人が悔しそうな声を上げるのが聞こえる。 「んだよ。仕事終わったのかよ。」 「終わったからここにいるんだろー。アストリもソレイユ様に報告しに来たんだろ?」 「もうちょっと遅く来いよ……。」 「ってそれよりそれより、あたし腹減ってんのよねー。それ、食わないならくれない?」 「誰がお前なんかにやるかよ。欲しかったらもう一回生まれ変わってくるこったな。」 「あたしが不細工だって言いたいの!? 世界一の美女に向かってそれはどーゆーことよ。」 「自称美女な。顔面偏差値終わってるからそうやって現実逃避してんだろ? 鏡見ろよ。ゴリラが何をほざいてんだか。」 「はぁ!?」 俺はクロエの目の前でわざと美味しそうにそのお菓子を頬張る。 「くっ! ……ねぇお願い! ひとつ! ひとつでいいからくれよー! 仕事の後は甘いもん食べたくなるじゃん!」 「はいよ。」 俺は空のお菓子の袋をクロエにつきつけた。 「わ! くれんの!? ……って、空じゃねぇかこれ!!!」 「欲しいんだろ? やるよ。」 「いらねぇよ!」 ────────────────────────────── 「紅月の森には死者がたくさんいたでしょう。 アストリ、クロエ、お疲れ様です。今日は何人送れましたか?」 「27人です。」 「……25人です。」 (フッ。勝った。) ソレイユ様に跪いた体制のまま、左にいるクロエにドヤ顔を見せる。 クロエはまさに悔しいといった顔をしていて、とてもいい気分である。 「計52人ですか……。今月も大量ですね。また明日も紅月の森へ調査をお願いしますね。二人とも、今日はもうおやすみなさい。」 「「失礼しました。」」 ソレイユ様に一礼して、部屋をそっと出る。 「ふぅ〜。今日も仕事したぜ〜。」 肩を回してゴキゴキと鳴らす。仕事した感があって癖になる。 「にしても紅月の日になると、死者は大量に出るよね〜。洗濯物を一気に出された気分。」 「わかりづれぇ例えだな。」 「分かりづらい? あ! てかそうよ、あんた、また洗濯物一気に出したでしょ! こまめに出せっていっつも言ってるよね!? 洗濯する側の気持ちになってやりなさいよ!!!」 「へいへい。そーやって怒ってばっかいるとシワ増えるぜ。」 「なっ……!!」 そう言い残して、俺はさっさと自分の部屋に戻った。 「ふぁーあ。」 (おお、帰ったか。 今日は暇で暇で仕方なかったぜ。) ジャケットを脱いでリボンタイをはずす。青眼の黒猫がこちらを見て話しかける。 「その怪我した足で仕事はできねぇだろ。」 (人間になれたからってはしゃぐもんじゃねぇな。) この黒猫は俺の相棒、エトワール。満月の日になると人間の姿になる。逆に新月の日になると弱る。 例えば病気になったり、全身が動かなくなったりとか、そういうやつ。 丁度昨日が満月の日だった。滅多に人間になれないから、こいつははしゃいで足を骨折した。 俺はその時腹が痛くなるほどまで笑い転げた。 (なんだお前、なんか食ったのか? いつもなら仕事終わりに何か食うじゃねぇか。) 「ん……ああ、なんか帰りに知らん女に貰った。はあ。これつけてるとすぐバレんだよなあ、死神一族のやつだーって。まあ別に隠してるわけじゃねぇけど。」 と言いながら、右耳にだけ付いている"国家管理課"の証を外した。 俺はアストリ。このオヴェゼニア国の国家管理課、第三課 死神一族に属する。 まあ意味はそのまんまだ。おれは死神一族だから死者をあの世へ送る仕事をしている。 そしてこの耳飾りは"国家管理課"ならば全員付けなければいけない。 一般人と区別するためだ。 (俺はもう寝るぜ。) 「ねむ……。俺も早く寝よ……。」 俺はさっさと服を脱いでベットに直行した。 「あっ、風呂入ってねぇ!」
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