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「…本当に、何も覚えてない?」 彼女は一口飲むと目線をカップに落とし、思い返す様にゆっくりと言葉を紡ぐ。 「家族の事はハッキリ覚えてるし、実家や職場でおきた事も覚えてる。ただ…」 「ただ?」 サッと僕の方を見上げ、 「ごめんなさい。貴方と過ごした記憶がないんです」 ああ。 この優花の潔さ。 彼女が気になり始め、色々アプローチをかけた時も、 「ごめんなさい。鈴木君とは付き合えないよ。世界が違い過ぎる」 何回断られたか。 容姿が優れてる事には自覚がある。 だから簡単にオチると思ってた。 彼女の外見は至って普通の女子。 よりか幾分ふくよかな位。 だけど抜群に姿勢が良い事に、彼女を目で追いかけてて気付いた。 僕より小柄なのに、その立ち姿、所作が堂々として大きく自信に満ちている。 後から、その件を褒めたら 「私普通より太ってるから、スマホとかで猫背の姿勢だと更に太って見えるから、立ち振舞いは意識してるよ」 と照れ笑いした。 更に彼女には迷いがない。 あーだ、こーだ悩んでるのは好きではない、と言ってた。 だから僕の気持ちが通じて、いざ付き合う決心をするのは、珍しく悩んだと言う。 そんな清々しい彼女から、忘れたられた僕。 凄くショックだ。 この部屋に入れば、少しは思い出すのでは?と期待する気持ちがあっただけに… 余程僕は気落ちした顔をしてたのだろう。 「鈴木君が同期だっていうのは知ってる。でも、貴方を助けたっていう同期会の頃からの記憶がさっぱり…」 優花は本当に申し訳なさそうな表情だ。
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