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私は光魔術師だ。光魔法を中心に魔法が使えて、回復もバフも可能なので勇者のパーティメンバーだった。
そう、「だった」のだ。
勇者は私の幼馴染で、所謂ガキ大将みたいな存在だった。ちょっと横暴なところもあるけど、強くてかっこいい。そんなことを思っていた時代が私にもありましたよ!
恋は盲目とはよく言ったものである。恋心やら憧れで、私は彼の欠点を見れないでいた。見えていなかったのだ。
好きな勇者のためにパーティに尽くす。戦場を駆け回っているうちに自分の美容に気を配る余裕も無くなっていた。
そんな私より立ち寄る町の綺麗なお姉さん達の方が魅力的なのは仕方がない話だった。勇者パーティということでそういう人たちはパーティの男性陣を歓迎していた。私はそれを何とも言えない気持ちで見ていた。
でもそれだけなら耐えられた。だって立ち寄る町のこと。たったひと時の話だから。
男性陣が楽しんでいる間に私もその町をよく見ることも出来たし、そこまで苦じゃなかった。宿屋から出たことが勇者にばれると酷く責められたけど……。
いや、まあとにかく、これは耐えられたのだ。私が耐えられなかったのは、王都からやってきたお姫様。彼女がパーティメンバーに加わったことだった。
回復魔法のスペシャリストで、私が使えない高位の回復魔法やパーティメンバー全員の状態異常の回復が可能だった。そしてそのお姫様は、なんといっても可愛らしかった。小さくて守ってあげたくなるような、絵にかいたようなお姫様。
勇者が彼女に仰々しく膝をついて、彼女を守ると誓った時、私の中で何かが壊れてしまった気がした。
回復魔法はお姫様の方が上。バフは私は使える種類は多いけど、他の仲間も使える。私はパーティの中で居場所がなくなっていった。
そしてある日、パーティの数人にもういらないから出ていけと言われたのだ。勇者の幼馴染だからパーティにいるだけのごくつぶし。女を捨てたわりに結果を出せない魔術師。要領が悪いからいつも走り回っている馬鹿。
酷いことをたくさん言われた私は、捨て台詞のように謝罪を叫んでパーティを離脱した。
そして、私は放浪魔術師をはじめた。
「って訳なんですよ。」
パーティから離脱して光魔法を駆使してステルスと加速のバフをかけ、がむしゃらに走り回った挙句辿り着いた村で、私はとある人物に再会した。
「酷い話ですね。」
「多分そうなんだと思います。」
この村は以前立ち寄った村だ。その時に持っている闇の魔力が強すぎて、体を蝕んでしまっている男性を光魔法で助けた。
その男性が今回、涙や泥でぼろぼろになった私に声をかけてくれたのだ。彼の家の客室に通されご飯も食べさせてくれた。ありがたい。
人助けはするものですね。いつか自分に返ってくる時もあります。たまに……。
「良かったらあなたの旅に俺も連れて行ってくれませんか。」
突然の申し出。
「え?!た、旅なんて良いもんじゃないですよ?!放浪ですし。」
「女性が一人で放浪しているのは危険でしょう。それに俺、あれからいざという時のために色んな訓練をしたんです。絶対役に立ちますよ。」
彼はそう言って譲らない。
闇の魔力を操れるようになり、さらに剣の修行もして、料理食事裁縫お茶お花など様々なスキルを磨いたのだという。何かラストの方、花嫁修業みたいだったけど。いざという時とは何なんだろう。
「えっと……じゃあ、まあよろしくお願いします。」
引く気がない彼に、こちらが折れる。彼は嬉しそうに頷いた。
いざという時が私に会った時のためで、
彼がこの話の後隠れて盛大にガッツポーズをしていたことも、
私がいなくなったことに気が付いた勇者が私を探しに来ることも、
この時の私は全く気が付いていなかった。
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