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「ゴメン、待った?」
すぐ隣から聞こえた声に、彼はゆっくりと顔をあげる。
夏祭りで屋台が建ち並んだ、神社の鳥居のすぐ隣。
ずっとこの町のシンボルとして存在し続ける
樹齢数百年の松の木の下で、
彼は夕方からずっとこの場所に立っていた。
大きくてどこからも目立つこの場所は、
夏祭りを楽しみにするカップルたちの
待ち合わせ場所として最適だったのだ。
これまで何人ものカップルが合流しては、
この場から去っていく姿を眺め続けていた彼は、
何度も顔をあげては、肩を落としてきた。
そして
…
…
『盆踊り会場はあちら→』
たった今やってきた浴衣姿の彼女と手をつなぎ、
楽しそうに夏祭りに向かう少年の後ろ姿を
彼は今回も恨めしそうに見つめながら、
手に持った看板を握りしめ、肩をがっくりと落として
こうつぶやいた。
「彼女がほしい……」
彼は、静かに泣いていた。
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