琢美

1/40
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ

琢美

一ノ社 琢美(いちのしゃ たくみ)。 彼は『此の世で最も美しい者』と言われる。 『一ノ社』の家は嘗て国の長に『献上』する『美しい者』を創造するため、国によって設けられた家である。其の当時国一番と囁かれた健康な『別嬪』と剛健な『美丈夫』を掛け合わせ、産まれた子の中から選りすぐりの者を国の長に『献上』したという。『献上』とは良ければ『婚姻関係』、大抵の場合は『愛人関係』であった。又『献上』されなかった者を使い『一ノ社』の家を存続させるため、『二ノ社』から『九ノ社』までの分家も設けられた。『一ノ社』の家の存続とは、只家を残すことだけではない。一定の質を保った『美しさ』を維持するため、外から家に交じる者の選定は非常に厳粛に行われていたという。 勿論、現在は『献上』なんて制度は撤廃されているが、『一ノ社』『二ノ社』『五ノ社』 『八ノ社』の家は残っている。残った家の者は『美しさ』を維持し家の名誉を守る為、各々の家同士協力してきた。そして現在、一定の美しさを維持してきた『社一族』の中でも『最高傑作』と言われているのが『一ノ社 琢美』である。烏の濡れ羽のような艶々な髪、黒曜石のような煌めく瞳に、其れを彩る切れ長の目。薄いきゅっと結ばれた淡い茜色の唇。すっと形よく象られた鼻。全ての完全な部品が完璧な位置に施された顔は、まるで一流の人形師が一から魂を込めて造った人形のように美しい代物であった。 琢美は現在高等学科の三年生となっている。今でこそなんとか学校に通うことが出来ているが、幼い頃は「傷が付いたら大変」「怪我をしたらどうする」という理由から外に出ることを禁じられており、必要な勉学は全て家庭教師から教わっていた。然し、今だって危険が伴う行動は全て禁止されている。彼の世界は、酷く安全安心でつまらないものだった。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!