駄菓子屋の噂

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「よし、いいよ」  先陣切ったノッポが窓の内側から手招きする。  午後十時頃、駄菓子屋の窓口から侵入する3つの影。 「おい、いいのかこんなことして」 「なんだメガネ、ビビってんのかよ」  声を抑えながら文句を言うメガネと、煽るデブ。  渋々窓から侵入するメガネにノッポは諭す。 「噂が本当だったら大変だよ。僕たちでなんとかしないと」  小学校で流れている、この駄菓子屋の噂。  ここの駄菓子を食べた者は依存症になり、ここの駄菓子なしでは生きていけなくなるという噂。  その駄菓子が駄菓子屋の地下で製造されているという噂。  メガネはばかばかしい噂だと思っていた。 「嘘だろ・・・・・・」  たった今、駄菓子屋の中で地下室の入口を発見するまでは。 「な! 噂は本当だったんだよ!」  大声で叫ぶデブにメガネとノッポはシーっと咎める。デブは手で口を押さえ、声を抑える。 「と、取りあえず、俺とノッポは地下室を調べてくるから、メガネはここで見張りな」 「なんで俺だけ見張りなんだよ?」 「噂を疑ってた罰だ」 「小学生かよ」 「小学生だよ」  メガネを扉前に置いていき、デブとノッポは地下室の探索を始める。  地下室に入った途端、甘いバニラエッセンスのような香りが二人の鼻孔をくすぐった。  手持ちのライトで辺りに光を当てて部屋を見渡す。  中央には木製のテーブル、部屋の端には流しがあり、その隣には大きな冷蔵庫があった。  パチ  後ろからスイッチを入れる音がした。  途端、部屋に明かりが付く。 「何やってるんだい、こんな所で」  入口で寝間着のおばあさんが立っていた。  慌ててノッポが口を開く。 「ご、ごめんなさい、昼間に駄菓子屋に来た時に僕が忘れ物しちゃって・・・・・・」 「それで探してたらたまたまここに入っちゃって・・・・・・」  デブも続けて用意していた言い訳を並べた。  それに対しおばあさんは優しく頷く。 「そうかいそうかい。普通に言ってくれれば良かったのに。それで捜し物は見つかったのかい?」 「はい、大丈夫です」 「失礼しました」  そそくさとおばあさんの横を通り、地下室を出る。  しかしメガネの姿は無い。 「メガネの坊やなら先に帰ったよ」  正面玄関から帰る二人を見送り、おばあさんは別の部屋のロッカーを開けた。  中にはメガネが縛られ倒れていた。 「んー! んー!」  そのまま地下室に連れて行かれ、放り出される。 「んぐぅ!」  冷蔵庫を開けると様々な色の液体の入った瓶が並んでいた。 「そうさ、噂は本当だよ。あたしが商品に入れているのさ。依存性の高いアレをねぇ・・・・・・」  おばあさんは喉を鳴らして笑う。 「あんたには新しく手に入れた薬の実験体になってもらうよ」  冷蔵庫の中から一つのビンを取りだし、そのビンを見つめる。 「どいつもこいつもあたしの商品を『駄』菓子などと馬鹿にして・・・・・・。  あたしの生み出す商品はね、駄菓子なんてちんけなもんじゃあない。  お菓子をも越えた『作品』なんだよ!」 「ばあさん、あんた、心まで駄菓子になっちまったのかい?」 「! 何!?」  メガネの方を見る。口を縛るヒモが緩んでいた。  そしてメガネのサイドに光る謎のライト。 「あんたの悪事の映像は全国に流れているぜ、このメガネを通してな」 「な!? き、貴様は一体・・・・・・?」 「古手川コヌン、探偵だ!」
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