今宵の月は

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「……晴人さん、起きていたの?」  ベッドから起き上っている糸原に気づき、由佳がおずおずと尋ねる。 「ああ」と糸原はうなずいた。 「もしかして、起こしちゃった?」 「いや、大丈夫……」  糸原は苦笑して答えた。起こしてしまったのは、こちらのほうである。 「……そう?」  由佳は小首を傾げ、思い出したようにスマートフォンを差し出した。 「ニノ方(にのかた)さんから急ぎの電話だったの。あとでかけ直したほうがいい?」 「……ニノ方?」  確か、今日の当直はニノ方だったはずだ。やはり、患者の容態が悪化したのかもしれない。 「いや、出るよ。ありがとう」  糸原の答えに、由佳はスマートフォンを手渡す。それから、へッドボードの明かりを点け、「リビングに居るから」と寝室を出ていった。  その後ろ姿を見送り、糸原は電話の保留を解除した。 「……すまない、待たせな」 「あ、糸原さんっ。こちらこそ、夜分遅くに申し訳ありません」  電話の向こうのニノ方からは焦りが感じられた。 「だれか容態が急変したのか?」 「あの、そうではないのですが……」  戸惑いながら、ニノ方は続けた。 「はっきりしたことはまだ分からないのですが……あの、笹本(ささもと)部長が……」
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