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「笹本部長?」
笹本部長とは、糸原が勤める西城中央病院の小児科の部長だ。糸原とニノ方の直属の上司でもある。
しかし、今日は公休だったし、当直でもない。その笹本の名前が出てくることに、糸原は違和感を覚えた。
「あの、本当に、まだきちんとした情報ではないのですが……」とニノ方は続けた。
「部長の家から、警察に通報があったそうです」
「通報?」
「ええ。で、そのあと、救急車の出動要請があり、今、こちらの病院に向かっているとのことです」
「状況は?」
「重傷者一、心肺停止者一です」
「心肺停止?」
「はい。重傷者は大学病院に運ばれるようで、うちには心肺停止者が運ばれてくるそうです」
「……部長なのか?」
糸原は声をひそめて尋ねた。
「はい、おそらくは……成人男性とのことなので、部長の家族構成から考えて、そうなのではと……」
「……わかった。これからそちらに向かう。ニノ方は到着しだい、確認を頼む」
わかりました、と答えるニノ方の声が心許なかったが、糸原は電話を切った。今は、下手な励ましよりも一刻でも早く病院に駆けつけたほうがいい。
素早くベッドから立ち上がり、リビングに続くドアを開けた。
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