今宵の月は

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「わかりました」と由佳は小さくうなずいた。 「……でも、もし、詳細がわかったら、忙しいでしょうけど、連絡してください」  その言葉に、キーボックスに伸ばした手を止めた。チラリと一瞥すると、由佳は不安げな表情で、唇をキツく結んでいる。  笹本は、早くに両親を亡くした由佳にとって、兄のような存在だった。そんな彼が、今まさに生死をさまよっているのだと、伝えることはできなかった。 「部長のことは心配ないよ」と糸原は務めて明るい声で言い、由佳を抱きしめた。 「大丈夫だから」  優しく背中を撫でる。  由佳も糸原の腰に腕を回し、身体を押しつけた。ギュッとしがみつく由佳の柔らかな感触が愛おしい。ずっとそうしていたいところではある。  ──部長のことがなければ。  糸原は名残り惜しく、由佳から身体を離した。 「何かわかったら連絡する」 「うん」 「だから、今夜はゆっくり休んで」 「はい」と、由佳が小さく笑った。 「いってきます」  ドアノブに手をかけ、振り返る。 「いってらっしゃい」と由佳は穏やかな笑みを浮かべ、手を振った。
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