11 色を挿す

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11 色を挿す

ロキナに、本気を試されている。 息子同然の自分を犯すことなどできないことを、見透かされている。 涼し気な美貌をした弟子はひたむきな眼差しでロファの顔色の変化を伺っている。 僅かに動く喉で、緊張しているのだと伝わってきた。 もしかしたら、ロキナはあのギルに襲われた晩のことを朧気ながら覚えていたのかもしれない。 壮絶な色気を立ち登らせ、美しく淫らにロファに抱かれることを懇願し、それを受け入れられなかったということを。 だからそれをいえばロファが引くと思ったに違いない。 しかしもうあの時と自分は変わり果ててしまった。 そう、もう自分は…… ロファの眼差しに獣のような欲が灯ったことに、ロキナは信じられない思いで一歩引く。 後ろにあった制作中の鎧がガラガラと音を立て傾きかける。 大柄なロファが華奢で白いロキナの手首を取り、乱暴に後ろを振り向かせる。 「わかった。今から抱く」 耳元近くでささやき、白く小さな耳をねぶる。 ロキナは混乱しつつも、小さな声をたてて喘いだ。 日頃は髪で隠れている真っ白な右側の耳元や首筋を髪をかき揚げ晒させ、上着を肩口まで素早くくつろげさせて顔を埋める。 熱い息がかかった後、チリっとした痛みが肩口に落とされ、そのままチュニックを巻き上げられて大きな手で胸の頂きを弄られた。 「ロファ、ロファ。あぁっ……   いけません、だめっ」 左手は滑らかな肌を味わうように動かされ、 時折頂きを撫ぜては爪で引っ掻くように擦りあげた。 そこから伝わる甘い疼きに身体がびくびくと跳ね上がる。 幼い頃男たちに何度も嬲られたそれは、今でもロキナの中に熾火のように残る感覚を呼び起こした。 右手が足の間に伸びてくるのをロキナは息を乱しながら必死に自身の右手で止める。 それを咎めるように顔を後ろに振り返らせ、慾るような口づけを落とす。 分厚い舌で上顎をなぞると面白いほど身体を震わせる。 しかし後ろから自由を奪われていることが抱くものを誤認させるのか。 2年前の陵辱の記憶を身体が覚えているかのように、別の震えが起こり、ぼろぼろと涙を零す。 その無言の哀願をロファは許さず、ロキナを抱えあげ、長椅子に乗り上げた。 涙で潤む大きな瞳が、自分を抱こうと上半身の服を取り去り、下履きをくつろげる逞しい男の姿を、信じられないものを見るような目で見つめ返してくる。 赤と青が使えるようになりたいの 初めての夜ミレイから告げられた言葉。 まさかまた同じ言葉を投げかけられる日が来るとは思わなかった。 「男同士では一度では差し終わらないかもしれない。それでもいいんだな」 まだロファの中にある人としての理性がそう言わせたのか…… ロキナは乱れた服を直すことなく、ゆっくりと上半身だけ起き上がる。 そして固く目をぎゅっと閉じるとぽろりと大きな粒が流れ落ちた。 「後悔、しません……」 見開いたその目は鮮やかな薔薇色に染まっていた。 ロファの望みが自分の仕事を引き継ぎ、開放されることであるならば、甘んじてそれを受け継ごう。 そのために必要なことならば、たとえ犯されてでも力を得ようと。 不器用で一途な心にはそれでしか愛情を伝えることができなかった。 しかしその心はロファに伝わっていた。 守りきれなかった家族とロキナ。 無力な自分にできることなど他に何があるというのだろう。 これほど、何度も瞳を変じさせて自分を見つめてきたものは他にいなかった。 今でも妻や子を大切に思っているが、ロキナからは受ける愛情に胡座をかいて、与えることはしなかった。 「優しくする」 その言葉に健気に小さくに頷きながら、ロキナはロファに腕を伸ばして迎え入れた。 しかし冷静さを欠きながらも頭は、理性をすべては手放せない狭間にいて。 ロファは流石に酒を飲んでそのまま寝てしまったような中年男の汚らしい姿で、純白の天の使いに似た弟子を抱くことは憚られた。 ロキナを抱き上げてアトリエに併設された水場に向かう。 仕事場から母屋に向かう前に身を清められるようになっている。 汲み上げられた地下水は温泉水と水に分けられているため、2つを調整して大きな一枚岩をなだらかにくり抜いて出来た洗い場に流したままにし、温かな蒸気で水場を満たす。 自分もざっと青銅の手桶で湯を浴びるが、下履きは脱ぎ、薄く長い上衣一枚で水場の前に立ちすくむロキナを岩の縁に腰掛けに座らせる。そして子どものときのように頭から湯をかけてやった。 ずぶ濡れになりまっしろな髪がピタリと身体に張り付く。同じように艶かしく身体に張り付いた象牙色の服越しに、白く光沢ある素肌と、色づく乳首が透けて見える。思わず見惚れていると恥ずかしそうに頬を染めてロキナは右腕ですっと隠す仕草をした。 そこはかとない色気は上着の切れ目からのぞく、真っ白で伸びやかな足からも立ち上る。 岩の中に座り、流れ落ちるお湯を浴びながらロキナの足を手に取り、今までの労を労うように足の甲に口づけた。 そのまま足の親指を舐ると、足を引いてロキナは口づけから逃れようと身悶えた。 「あっ あん、だめ…… 汚いからやめてください……」 更に細い膝の上を下から掴みあげて強く引き寄せ、体ごとなだらかな傾斜を描く岩風呂に横たえる。前に結ばれた衣の紐がお湯を浴びて固くなってしまったのを解くことができず、キスをしながら腕を両腕をあげさせると頭から抜き取って部屋の向こうに投げさった。 「出会ったときから、お前はずっと、どこをとっても綺麗だったさ」 しつこく口づけを繰り返すと徐々に身体の力が抜けていき、縋るような素振りを見せる。 顔色を図りながら進めようとしたが、蕩けて艶めく瞳に見つめ返されて、逆に滾る。 「あの、ロファ。もし、無理なら、口で……」 真っ赤に耳まで染めながらそんなことを言うロキナに、自分の欲望を擦り付け、強く首筋を吸い上げた。 甘く柔かい弟子の肌には簡単に赤い花が咲いた。急に強い独占欲が沸き起こる。 かつて他の男たちが行ったかもしれぬ行為とは違い、合意の上でこの身体を思う様に暴きたい欲が猛烈に湧きあがる。 (瞳の甘い毒でもまわってきたのか) たんに、何年も欲望を抑え込んでいたからなのか、芸術を愛するものとしてこれほどまでの純粋な美しさに触れることに、心からの歓びが湧き上がってきているのか。 自分でもこの欲の源を辿ることは難しかった。 しかし里の男たちが進んで女に溺れていくように、一時この蜜のように甘い身体を享受したくなった。 ロファが徐々に自分に耽溺してくる様を、ロキナは素直に受け止めていた。 大きな身体で自分を慾る様は自然であり、なんのてらいもなく、むしろ今この瞬間、自分たちは今ここに生きているとありありと感じることができた。 ロキナの、身体に似合わず大きめ目の竿や袋をやわやわと触る。出会った幼さの残る頃よりはすっかり雄をましていたが、色も形もこんなところまで美しくて嫌悪感はなかった。 身をよじる腰は白く細く括れていて、 ツンと反返る胸飾りは少しだけ上向き色づく。 長く艷やかな生糸の様な髪は、ロキナにしか見られないような色合いで、アルビノの蛇のように身体に巻き付き色っぽい飾りとなっていた。 男でありながらも倒錯的な美に溢れた、信じられないほど蠱惑的な姿形をしている。 それまで欲を持ってロキナを見ないようにしてきたため、この気づきは驚きでもあった。 ロキナに多くの男が、群がりそれをユノがばさばさと振り落としているのはあながち大げさな噂ではなかったようだ。 「ロファ、あまり見ないで…… 恥ずかしい」 若草色のいつでも自分を優しく眺めてきた瞳が、欲にまみれて視姦してくる様にロキナも高まりを抑えられなくなっていた。 その高まりに舌を這わされ、甲高い声がひっきりなしに漏れた。 途中からくぐもる。見れば両手の指先を口元に添えてロキナは声を漏らさないようにしていた。 ロファはそれを許さない。 下から上へと舐めあげると低い声で命じた。 「声を聞かせろ」 首を降っていやがるロキナの声を堪えられなくさせようと、サディスティックなまでに竿を吸い上げ、先走りのぬるみを手に取ると、右手の中指を後肛に差し入れた。 「ひぃっ」 男の相手は初めてのため、探るように内部を弄りながら、逆の手では汁をこぼす竿を擦りあげて泥濘んだ手を上にあげ、乳首を弾くようにこねあげる。執拗に弄り続けると、すすり泣くような声を上げ、後肛がぎゅっと絞られる。 指を増やして更に探れば、ロキナの泣き所にあたったようで、身体を打ち上げられた魚のようにびくびくと小刻みに震わせて果てた。 「他の男にもこうやって弄られたのか?」 あえてロファがいうとは思えない、揶揄するような言葉に、ロキナは半ば瞑っていた目を開いて顔を見る。 そこに浮かんでいたのは過去の男たちへの嫉妬だった。 男のけだるげな色気を漂わせ、まだ少しいったままのロキナの腰を、ずりっと力強く引き寄せる姿はもう、師でも父親代わりの男でもなかった。 雌に種をつけようと獰猛に抑え込む獣のような顔だ。 岩がなだらかに湾曲しているので、少しだけ身体は起き上がった状態のロキナは、ロファのものの大きさに一瞬怯んで足を閉じかけた。 ロファはそれを許さず、滑らかな白い足を蝶の羽のように大きく広げさせた。   「怖いのか?」 初めてでないことは知っているだろうが、 そこに揶揄の響きはない。 「ここに迎えるのは、初めてのとき以来です。正直、あの頃にされていたのは、今考えるとあれはただの前戯というものだったのだと思います……」 成長途中だった身体の華奢なロキナを、初めての男が無理矢理抱こうとして、先を含めた程度だけで入り口付近を傷つけられて、数日寝込んた。店主が商品を傷つけたと激怒し男にくってかかったが、それでもロキナのもとに通うとわかると、その後次に男が来るまで時間を開けられた。 ロキナの値段を釣り上げて行くために、男たちにいつかロキナが成長したときの、身請けをさせることをちらつかせつつ、素股や前戯でのみロキナを弄び、すべて暴くことを禁止にしていたのだ。 「なので正確には多分、奥まで男をむかえたことはありません」 子どもの頃の感情の削げたような口調に戻ってしまったようなロキナを憐れに思いながらも、初めてこの身体を暴くことへと興奮が増していく。 ロファは再び後肛に指を差し入れてほぐし始めた。 つんとした乳首を、今度は舌で柔らかく吸ったり嬲ったりする。 左手は指を口元に差し入れて、そちらは舌を弄ぶことで甘く子犬のような音を上げさせるのを楽しんだ。 男にもあるという中の良いところ。 ここに魔力を当てるとどうなるのだろうか。 悪戯心が起き、ピリピリと感じる赤の魔力を少しだけ手応えのある膨らみに押し当てる。 「あぁ!」 反射的にロファの指を噛むほど反応してガクガクと身体を揺らす。 急に嗜虐的な感情が浮かび、擦りながら更に力を流し込む。 左腕を首の後ろに差し入れ、乳輪を舐め甘噛みして身体を固定すると、刺激を逃せないロキナの足が宙をかく。 絞るような悲鳴をあげながら、ポタポタと愛液を垂らすようにイキ続け、中がうねるように収縮する。 「せんせぇ、ろふぁ。もう、だめ……」 辛そうに蕩けてふやけた目を瞑り、細い眉根を寄せて喘ぐ顔はより苛めたくなるような艶美さで、ロファは熱く温んだ指を引き抜くと小さくはくはくと吐息を漏らす唇を吸う。 そしてそのままゆっくり自身をロキナの中へ埋めていった。 お湯を浴びて火照る身体は抱き合うとさらに熱く、ロキナの中は入り口すぐはとろとろと蕩けつつも、狭い奥はまだ開ききっていない。 辛そうに声を漏らすのをまた口づけであやし、ゆっくりと緩く揺すりながら隘路を開く。 中は時折小さな収縮でロファを締め付け、目眩がするような快感に溺れ、わけがわからなくなるほど突きあげたい衝動にかられる。 しかしそれでは色を差すのではない、ただのまぐわいだ。 差したい色の魔力に集中させながら最奥を穿つように腰を動かす。 青の魔力は引っ張られるような感覚を相手に与える。抜き差しすれば抜くときの感覚が倍増し、相手にすべてを絡み取られるような独特の感覚を得るらしい。 次第に早くなる注そう、結合部からの水音はまし、ロキナの口元からはひっきりなしに甘い声が上がりこぼれ落ちる。 「ろふぁ、だめ、くるしぃ、ぁぁ おおきい……」 溢れるのは涙も同じで、ポロポロ泣きながら、愛くるしくも色めく美貌にそう言われて、更に大きくしてしまう。 「苦しいだけなのか?」 閨での師が、こんなにも意地悪な男だとは知らなかった。ロキナは思わずユノにするようにとろりと潤む目を向けて睨みつけた。 その間もぐちゃぐちゃとかき回され、たまに浅く引いては良いところを狙って鬼頭をごりごり押し当てるからもう、ロキナは気をやる寸前の愉悦に息も絶え絶えになる。 「もう、奥にください」 その動きの手綱を握ろうと、きゅっと後肛を締め付けながら長い足でロファの腰に抱きつく。 そんな仕草は妻にすらされたことがなく、 ロファは頭の片隅で完全にロキナに溺れつつある自分に気がついた。 「もったいなくて、いきたくないな……」 思わず本音を漏らした男に、ロキナは胸を締め付けられて更に中をきゅんとさせた。 「何度でも、ください」 その言葉を合図にしたように。音がするほど腰を打ち付ける。遠慮どころか貪る動きに年齢は感じられず、年若いロキナは翻弄され嬌声をあげ続けた。 一度ピタリと動きを止め、ロキナの雄の印に手を伸ばしそれを擦り上げながら大きく腰をグラインドさせ、先にロキナを追い詰めた。 中でも極められる癖付けを行うように、あと少しでいきかけるロキナの無意識にかくかくと動く腰をみて、立ち上がる根元をぎゅっと掴む。 「ろふぁ、ろふぁああ、いやぁ」 ロキナが息をつめた瞬間、今まで以上の強さでがつがつと突き上げ、中で軽くイキ、吸い付く動きを見せたロキナの最奥へ、青の魔力を帯びた精を放った。 その瞬間手を離されたロキナの自身もどろどろといつまでも緩く精をこぼし、ぐったりと目をつぶり、回されていた足も、力なく落ちていった。 ロファは右の足を肩に抱えあげ、さらに結合を深める。 ゆるゆるとした動きで自身を刺激する道具として、意識のないロキナの蕩ける蜜壺を扱う。もはや箍が外れた放埒な姿はロファ自身が嫌い、避けてきた故郷の男たちの姿そのものだった。 快楽におぼれ、意識をなくしても性的な紅潮で色づき喘ぐロキナの淫らで美しい姿を犯すことに耽り、さながら獣にまで堕ちたかのようだ。 二度目は色差しではなく、普通に欲望を抑え込めずに放った。 引き抜くとトロトロと二度の精がこぼれ落ち、岩を流れる水に溶け流れていった。 冷静さを少し取り戻し、くたりと顔を岩につけ水の飛沫を浴びるロキナを抱き上げる。 大きくなったとはいえ男の中では華奢な方だ。 大柄な自分を受け止めた健気さに今までとは違う愛おしさが溢れた。 親猫が子猫にするように唇で顔を舐めとるようにキスをすると、ゆっくりとロキナの瞳が開いた。 そして若草色の目が近くにあることに安心するかのように笑った。 「ロファ」 こんなにも愛情を込めた呼び方をしてくれる人はこの世にそういない。 知らずに溢れる涙をロキナに、気が付かれないように。 ロファはロキナを強く抱きしめた。
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