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7 秘めたる思い
迎賓館は離宮と似た雰囲気になっており、宿泊者は自由に会場と行き来しているため警備も宿泊する人も往来は多めだ。
王城自体魔法技術学園とは隣同士の山の上にあるので、どちらも広い敷地の外は崖だ。
警備はポイントを抑え、中にはいってしまえばもうかなり安全なのだという。
魔法技術学園と麓の職人街市場のように、
こちらの城のある山に、バードゲージを渡したら移動時間は大幅に短縮されるのになあ。
などと、やくたいもないことを考えながら、汚す前に服を着替えるため、続き部屋の寝室に移動した。
ベットヘッドの上の花の形の明かりは流石に迎賓館。魔石の力で自動的についた。
これは技術に秀でた東の国の機械で一般には勿論浸透していない。
長い繊細なベストをまずは脱ぎ、寝台横のナイトテーブルの上にとりあえず畳んで置いた。
繊細な作りのブレスレットとずしりと重いペンダントを外して置く。続いて髪飾りを慎重に引き抜く。
髪はうまく崩さないと、絡まりやすいロキナの毛は大変なことになるだろうから触らないでいた。
(この服、清浄魔法を使えるお店で清めてもらわないと駄目だよなあ。頂いた服だし)
その時隣の部屋で扉が開く音がした。
当然ユノが来たのだと、隣部屋へ続く扉の方に寄っていく。
しかし入ってきた男は、思いがけない人物だった。
師と同じ赤銅色の髪。
眦のつり上がった大きな鳶色の瞳。
山里の部族の赤い民族衣装で豪奢に着飾った、ロファの弟ギルの姿だった。
ひゅっと喉の奥がなるほど息を呑む。
あの日感じた粘着くような恐怖が湧き上がり、ロキナは後ろがなくなるほど後退った。
「おいなんだ。挨拶もなしに睨みつけて」
自分が勝手に入ってしたくせに、相変わらずの傲慢な口調が、逆にロキナに火をつけた。
相手に負けるものかとさらに湖水のように光る瞳でにらみつける。
「勝手に人の居室に入るなんて。出ていってください。警備のものを呼びますよ」
その言葉がギルを確実に煽ったようだ。
「混血の男娼ふぜいが俺に指図をするのか」
瞬間、鋼のように鍛えられたギルの身体が素早く動き、赤い残像を伴ってロキナを寝台の上に抑え込んだ。
そして間髪いれず、ユノから送られた月色の上着を組紐ごと引きちぎった。
ロキナは与えられた暴力に悲鳴を上げながら応戦する。掴んだむき出しの二の腕にケロイドにまで皮膚が爛れるイメージを流した。
焼けつく痛みに一瞬怯んだギルだったが、ロキナの頬を平手で張ると、自分の右手を当てて素早くそれを癒やした。他人の出した色を引かせられるのは魔力の強いものの証だった。
倒れ込んだロキナが呻いて臥す間に腰の飾り紐を抜き、ロキナのほっそりとした腕に巻きつけ容赦なく縛りあげる。
とろみのある柔らかなトラウザーズを下着ごと、半ば引き裂きながら寝台の下に投げ捨てた。
ロキナはやめろ!と喚き散らし、憎しみに瞳を赤く変じさせる。
「なんで、こんなことを」
相手がわざと苦しむように、股関節が軋むほど脚を大きく開かせて固定し、逃げられないとわかると、今度は緩慢な仕草でロキナの胸元近くの布をゆっくりと開いていく。
「兄貴が悪いんだ。息子を俺のもとに送らない、結婚もさせないなんていうから。
俺だってミレイのような妻と多色の子がいたら簡単に成功するだろ、里なんて狭いとこの長なんてもんじゃなくて」
ギルはロファの里の長代理として城に招かれたものの、兄や義姉のきらびやかな姿に酷い嫉妬を覚えたようだ。
「いまの師があるのは、一人の理解者も味方もいないところから自分の力だけでのし上がってきたからだ。あなたのように小さな世界の中でふんぞり返って来たわけではない。
……愚かな男だ。」
ロキナは気持ちは屈しない姿勢を崩さない。
いっそ人であらざるもののような美貌が鬼気迫る表情に変じ、瞳は真っ赤に燃えていた。
「ふんっ、魔眼か。まるで女そのものだな」
「ああっ!ぃ、痛」
ギルはロキナの淡い色の乳首を遠慮のない力で摘み上げてよじる。
痛みにロキナが悲鳴をあげると、嗤いながら、さらに脚を開かせて片側の体重をのせた。
そしてロキナの肩から逆の胸飾り、引き締まった腰。へそや滑らかな腹を通り右の腰骨の上まで。時折噛みあとを残しながら、舌を這わしていった。舌が通ったあとは焼け付くように痛く熱い。ギルが力を使いあとをつけているのは明らかだった。
「……縄目の赤だ。火照るようで心地よいだろう」
ロキナの滑らかな白磁の肌には蛇に巻きつかれ、絞められたような跡が艶かしく浮かび上がっていた。
「益々美しいな…… お前のことは前から目をつけていたんだ。お前を里に連れ帰ってフイゴにすれば、俺にも五色以上の子ができる」
あの初めての晩にロファがいった言葉だ。
フイゴ?
色変幻魔法の学者を目指す身としてどうしても反射的に聞き返さずにはいられなかった。
「お前のこの胎に、何色かの男の胤を注いで色付けして、その胤を女に注がせれば、多色の子ができる。
お前のような目を持つ男にしかできない。
その子の血を分けた親にはなれるのだから、
名誉だろう?
お前のことは俺がずっと可愛がってやるよ。赤を注いで、もっとよく色付けしてやる。
フイゴにしたものには大事に扱うもんだ。
どうせ兄貴ともやってるんだろ?」
そう言っていやらしい仕草で、混ぜるようにロキナの腹を撫で回した。
ロキナはもう、悔しさで視界までも赤く染まるほどだった。
「お前にこの身を自由にされても心は屈しない! 今はやりたければやればいい!
でも絶対にお前を呪ってやる」
「従順なフイゴでなければ、
可愛がれないなあ」
ギラリと獰猛に鳶色の目がひかり、ロキナが顔を背ける前に、顎が割れそうな程の力を込めて仰向かせる。ギルは懐からだした柘榴色の小瓶を少し煽る。
いやいやするロキナに無理やり口づけ、ドロリとした蜂蜜のような液体を飲みこませた。
そしてロキナの小さく縮んでいた柔い陰茎を握り力を込める。ロキナは恐怖で腰を動かして逃げを打つが叶わず、悲鳴をあげつづけた。
ギルに変化させられた陰茎はかきむしりたくなるようなむず痒さと火照りが沸き起こり高まり続ける。
動かせない腕はそれをかきむしりたくて、括られた腕は紐で擦れて血がにじむ。
身体の内側からも熱さが、炎の熱で炙られたように衝動が湧き上がり、ギルに触られるたびに痛みと信じられないほどの快感が沸き起こって頭がおかしくなりそうだった。
「ここ、ここを女がよがり狂ってる時のあそこと同じに色付けしてやるよ。生意気な口が二度と聞けないように壊してやる。
従順な俺の奴隷になったら閉じ込めて、
里でずっと可愛がってやるからな」
大きく開いた足の間、つましい穴に、先程の液体を大量に纏いつかせていきなり2本の指を含ませる。
ロキナは悲鳴に喉が切れるほど、獣じみた声を上げた。
それほどの悦楽と痛みがいっぺんに襲い、口元からは飲み込みきれない涎が垂れるほどだった。
わざとロキナの腰が揺れ、身体が跳ね上がる場所をさぐり、指で擦る。しつこく抜き差ししつつ、そのままの気忙しげに3本に増やした指で大きく擦りあげつつ、右側の胸飾りを紅く腫れるまで執拗に舐めげた。
体を起こして今度は液をぷしぷしとこぼし続ける陰茎を擦りあげると、ロキナは責め苦にかすれた悲鳴を上げ、果てて気をやる。
ロキナは焦点が合わなくなる目をつぶり、もはや息も絶え絶えだった。
その様を可笑しくてたまらないようにギルは嗤い、全身を桃色に染め、半刻前まで美しく装っていた髪が乱れきっても、なお美しく淫らなロキナを見下ろした。
そして、再びロキナの顔を小さく張って起こす。
「おい、起きろ」
その声だけは、師のロファに似ていたのだ。
ロキナの白鳥の羽毛のようなまつげが揺れる。
涙でぐちゃぐちゃだった瞳が、雫をこぼしながら開いた。
「ろふぁ、ろふぁあ……」
さながら薔薇の花のような色に染まった、
大きなアーモンド型の目。
それをギルはまともに覗き込んでしまった。
「……ろふぁ、だいて。
つらい……… おなさけ、ください」
子が親に乞うような耳障りのいい無垢な声色で。
ロキナはさらにはらはらと涙をこぼし、
可愛らしいとも、いっそ哀れとも思える媚態でギルを誘った。
ギルは虚をつかれたように動きを止める。
片手でもつかめるほど細く折れそうな腰を掴みあげると、ロキナは小さく、あん、と喘いで身をよじる。
急に従順な反応を見せるロキナに魅入られたまま手を伸ばし、そのさらなる快感を引き出そうとした。その時。
隣の部屋でノックの後にドアが開け放たれる音がし、高い足音が聞こえ、その僅かあと、食器が飛び散り割れる音がした。
「貴様っ! ロキナから離れろ!」
怒れる若獅子のように、ユノは全く躊躇なく飛びかかった。
日ごろから剣術で鍛えあげ、来年には騎士団への入団も決まっているユノは、成人男性にも全くひるまず、不意をつかれたギルとともに、もつれ転がりながら寝台から落ちる。
すぐさまギルに乗り上げて、その顔をぼこぼこに殴りつける。
やられてばかりいないギルは長い脚でユノの腹を蹴り上げて身を離すと、入り口側に引こうとした。
それをさらに足を羽交い締めにして引き倒し
たユノは、腹を庇いながらも俊敏に立ち上がり、ギルの上に乗り上げ、腹と顔といい滅多矢鱈に殴りつづけた。
「殺してやる!!」
当然ロキナが何をされていたのかユノは気がついていた。本来ならば自分を待って甘い声で迎えてくれるはずの恋人の無残な姿を目にし完全にキレた。
「いや、ろふぁ、ろふぁああ」
もはや正気を保っていないロキナは狂ったように泣き叫ぶ。
ユノがロキナに気を取られたその一瞬を逃さず、もう一度立ち上がったギルの、ユノの目の前に来たふくらはぎに、散乱し転がっていたガラスの破片を引き裂くように突き立てた。
断末魔と言ってもよい悲鳴があがった。
騒ぎをやっと聞きつけた近衛兵が見たものは真っ赤に染まった足を抑えて呻き倒れこんだ男。
返り血を浴び、自らの掌からも血を流しながら呆然としたユノ。
そして痛々しくも壮絶に美しい裸体を晒し、ロファを求めて慟哭するロキナの姿だった。
それはまるでこの世の地獄のような
見るものすべて戦慄する光景であった……
「こ、これは…… ユノ様!!」
近衛兵を飛びこすように入ってきたのは、たまたま通りがかり、城の警備に駆り出されていた紅の騎士団の男だった。
「そいつに触るな!」
自分に寄ってきた騎士団の男の腕を振り払い、近衛兵が介抱しようとロキナに近寄るのユノは恫喝した。
そして血が滴る手をそのままに、自ら寝台の上に駆け上がり、ロファを求め震えて泣くロキナを返り血を浴びた自分の上着で包む。
「その男を捕らえよ! ロキナ、しっかりしろ。俺だ、ユノだよ」
ギルの血がついたままの手のひらを頬に手を当てると、ロキナはハァハァと喘ぎ、辛そうに身悶えた。
すんなりとした眩い脚の間から立ち上がったままの陰茎をみて、騎士団の男は悟る。
「ユノ様、何か薬物を飲まされているのかもしれません。どんな類のものかを判断せねば」
床に転がる男は、失血からか、気を失いかけている。
「……炎蒼の変幻師を呼べ」
自らの最愛のあられもない姿を他の男に見せるのは耐えがたかったが、
苦しむロキナをこのままにしておくことなどとてもできなかった。
ロファが急いでロキナが移された部屋に到着した時、手に巻きつけた布が真っ赤に染まったユノが騎士に肩を抱かれ、部屋を出て来るときだった。
ユノはロファを見つめると、まるで恋敵でも見るような燃え立つ紫の瞳を向けた。
「あなたと同族の男に、なにか薬を飲まされたようだ。ロキナはあなたを呼んでいる」
同族の男といったら、昨日ファの家を訪ねてきた弟と部族の男たちの顔が浮かぶ。
あのとき、サナをギルの娘と娶せるまで里で育てさせろという申し出を、けんもほろろに断った。
その腹いせなのか……
静かに入った室内は仄暗く、まるで出会いの時を再現しているかのようだった。
寝室に入るとベッドサイドの、小さなベルに似た花をもした明かりのみが灯り、寝台から小さいが荒い吐息がひっきりなしに聞こえてきていた。
寝台の上に仰向けに寝転ぶ白っぽい人影。
半ば意識を失うようにぐったりしている。
薄く開いた瞳は焦点が定まらず、うわ言のように何かをつぶやいていた。
ろふぁ、ろふぁと。
「ロキナ、俺だ」
血まみれの上着が傍らに落ち、引き裂かれた服から覗く体は痛々しい陵辱の後で埋め尽くされていた。
あまりにも酷い有様に言葉もなくす。
この執拗な跡、ロキナに執着していたギルの仕業を思わせた。
ロキナはふいに意識を取り戻すと今度は鋭敏になった耐え難い感覚に苦しみ、自らの手で陰茎を擦り、後孔をかきむしるかのように曲げた指を何本もさし入れて擦る。
しかしもういけないのか泣きながらロファを呼びつけ、髪を振り乱し身悶えている。
壮絶に妖艶な姿は、この世のものとは思えない。
ふと、動けないでいるロファとロキナの視線が交錯した。
ロキナは腫れてもなお円な瞳に、花色の輝きを宿したまま、嬉しげに啜り泣く。
ろふぁ、すきぃ、
だいて、
すって、すってぇ、
舌足らずな声が甘く溢れる。心に秘めていた小さな想いをすべて晒すかのように。
細い擦過傷だらけの白い腕を懸命にロファに向かって伸ばしてくる。
氷の瞳には、薔薇の花が咲いたようなゆらめきが宿っている。
その腕を拒める男がいるだろうか……
「ロキナ、だめだ」
しかしロファは寝台に乗り上げ、あの頃よりは成長したが依然華奢な身体をきつく抱きしめ、悶えるその身を胸に抱き込んだ。
「ろふぁ、ろふぁ」
腕の中で、嬉しげに啼く声。
「ロキナ、耐えろ。
お前は俺に息子を犯すような真似を
させるつもりか」
正気を失わせる程の媚薬だが、
本来眠っている心の底の欲望を
溢れ出させる怖ろしい鍵にもなるのだ。
ロキナの秘めた想いにも触れながら、
ロファはロキナを励まし続けた。
心の強い男だと、信じているという部分と、
それを言い訳にするように、想いに応えられないと逃げをうつ気持ちにロファの心は波打った。
潤む瞼を閉じさせ、痛々しい跡を少しずつ指先に力を宿して消していく。
敏感な部分に触れると、艶かしすぎる悲鳴を上げ、はくはくと吐息を漏らす。
淡い色の陰茎からはだらだらと水気が漏れていた。
「ロキナ、家族のように、
お前を愛している」
目を閉じたまま脱力してきたロキナの汗に濡れたこめかみに、口づけを落としてあやす。
愛している。
あの星空の下、連れ出した小さな命。
慈しむ心には今だって一つの曇りもない。
「お前は愛されることを知らずに育ち、
無償の愛や身を焦がすが恋がなんたるか、
わからないままなんだよ」
傷は治すことができず、薬も切れるのを待つしかないが、それでも少し穏やかになった寝顔に呼びかける。
この子や家族を守っていくことが、
この先俺にできるのだろうか。
高みを目指し名声を欲しいままにしたはずが、何も成し遂げることなどできないような心地になる。
無力感に苛まれ、最愛の弟子の涙を拭い
ロファ自身も涙をこぼしながらロキナを抱きしめていた。
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