1 赤い褥の少年

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1 赤い褥の少年

 淫猥な営みを連想させる  滑らかで光沢のある赤い褥 桃色と藤色の透けるような紗の天蓋は幾重にも下ろされ、小さな主の姿を隠している。 この鳥籠のように小さな部屋に、今宵の の相手となる男が入ってた。 軽い織物でできた天蓋の僅かな動きで、少年にはわかるのだ。 天蓋を乱暴にめくり、いきなり飛びかかってくる獣のような輩もいるから、  この瞬間はいつも緊張する。 強ばる身体を心で叱咤し、宿屋の主人から褒められる、嫣然とした笑みを作ろうと努力する。 これは戦。 自分と相手の真っ向勝負。 うまく相手を喜ばせられないと放逐されると いつも脅されていた。 美しい容姿だけが取り柄で、なんの学のないお前などここを出たらすぐ野垂れ死ぬに決まっている。 実際親にここに置いていかれてから、この宿が少年の居場所の全てだった。 できるだけ相手を魅了して、この宿にいる滞在期間を長くしてもらわなければいけない。 なるだけ優しくしてもらえるよう、従順なふり、相手に夢中なふりをする。 もうずっとやってきたのだから、 今日だってできるはず。 小刻みに震える肩を、右手で一度ぎゅっとつかむ。 紗がふわりとかきあげられた。 少年は滑らかな白い足が見え隠れするよう、艶かしい夜具の裾をさばく。 「やあ、君なのか。美しいね」 入ってきた男はおよそ欲などないようなのんびりとした口調でいった。明かりを背負っているせいで顔は良く見えない。 あのとき、後に師となった男は自分をどのような顔で見下ろしていたのだろう。 今となってはもう、問うこともできないのだ。 夜の匂いだけで作られた赤い小部屋から、 自由な青い空へ小鳥を放ちに来た。 あの瞬間の師の顔を。
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