もとに…

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もとに…

責任ある仕事を任されてから、1年経とうとしていた。 部下のマネジメント、上司からの圧力、クライアントからのクレーム対応、目の前にいるユーザーの対応… トラブル続きで、その度に自分の力無さを痛感した。 育成を任された部下は、マンツーマンの指導を行い続けたが、危機管理におけるアンテナが中々張れず、一向に変化が見られない。 今の会社に入ったのは2年前。当時は役職も無く一般社員だった。 その時に比べると上司から叱責されることが大幅に増えた。 クライアントの要望に応えられず、サービス品質をも下げてしまいかねないことも沢山あった。 出来てないことが多すぎて、日々改善ばかり。 上手く行かないことが続いて、また落ち込む日々。 それでも、守るべきチームがあると思うと翌日には、声を張ってみんなに心配を掛けることがないように強くありたいと思った。 際限なく求められるスキルと判断力。 上司の期待に添えないことにも気づいていた。 どんどん、自分が見えなくなっていたのだと思う。 家に帰ると、いつからか吐き気を催す日が増えた。 シンクの前で胃液を吐き出し、あまりの苦しさに涙が止まらず、 そのうち立っていられなくなり、吐き出すだけ吐き出した後、床に座り込んで、呼吸が落ち着くまで目を閉じる。 食べ物を食べると、職場でも吐き気が強くなった。 周りにバレると大変だから、次第にふつうの食事をしなくなった。 受け付けるのは、水と少量のグミぐらい。 誰にもバレないように。 チームの中では、せめて笑顔に見えるよう頑張ろう、と決めていた。 自分の変化に気付いてから、どのくらいの時間が経過したかは分からない。 ただ毎朝がとても憂鬱で、通勤の行きも帰りもずっと仕事の反省ばかりしていた。 辛い、ということを自覚するのに時間がかかった。 上手く行かないのは、自分の実力の無さだ。 私がもっと勉強して、もっともっと頑張って対応したらいい。 それで全部治るとは思わないけど、やるしかない。 頑張り続けるだけ。 ひたすら走り続けた。限界はどこかは分からないが、毎日会社に行っている。 その事実だけ、確かなものだった。 1日、1日、どんなにキツくても、次の日には別の課題に向き合わなきゃいけない。 とにかく現場に立った。 諦めたくなかった。 いろんなことを ある日、久しぶりに会った同僚が目を見開いて、酷くショックを受けた表情を見せた。 「何があったの?どうして、こんなに…」 その時、自分は元の体重から15kg近く痩せていた。 軽くなったと感じることはあったが、それより自分の意識が時折遠のいたり、部下の質問に対して意図を理解するのに時間がかかり、判断力も明らかに低下していた。 同僚は、目を赤くして、必死に涙を堪えていた。 なぜ? どうしてそんな顔をするの? わたしは会えて嬉しかったよ。 その時、同僚から心療内科の受診を勧められた。 というか、半強制的に彼女の知り合いが勤めているというクリニックに行くことになってしまった。 その時、診察した医師からこう言われた。 今まで、独りでよく頑張りましたね。 みんなのために。 今度は、あなた自身を大切にしてあげて下さい。 あなたらしく、生きれるようにね。 初めて会った人の前で、 生まれて初めて泣いた。 涙は馬鹿みたいに流れ続けて止まらなかった。   ようやく、気付いたんだ。 今のわたしは、わたしじゃない 一回、立ち止まって、やり直そう。 ただ、必要とされたかっただけ でも、きっと間違えた。 もう一回、わたしに戻ろう。
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