もとに…

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休職で、元に戻れる保証なんてどこにも無かった。 迷惑を掛けることも重々、承知していた。 医師からは、 ゆっくりでいい 焦らず、自分を労ってあげましょう。 そう言われた。 何にも縛られず、忘れていた自分を見つけるために、時間が必要だった。 選択肢は一択。 会社を辞めること 色んな思いが去来した それでも、踏ん切りがついたといえばいいだろうか。 未練はもう無かった。 退職して、それから毎日 同じ時間に起きて 朝日を浴びて、窓を開ける。 優しい風が部屋に吹き込んで、体をそっと包んでくれた。 それから 自分のために、朝ご飯を作った。 食べれなくても、自分を責めないこと。 ふんわり香る出汁がきいた味噌汁 ちょっとだけ甘めの卵焼きを6時半から作り始める。 ご飯も丁寧に研いで、炊飯器をセットしてじっくり炊き上がるのを待つ。 魚は、鮭を焼く日が多かった。 野菜はトマトやオクラを添えて。 テーブルに並んだ一つ一つ シンプルだけど彩った朝食を見て、嬉しかった。 目を閉じて ゆっくり炊きたての匂いを吸い込んだ 時間はたっぷりある 箸はなかなか進まなかったけれど 少しずつ食べれる量だけ手を伸ばした。 はじめのうちは、何の感情も無かった だけどそのうち、せっかく作ったのだから食べてみようか そんな気持ちになった 食べても味がしなかった感覚が、少しずつ おいしい、と思えるようになってきた ゆっくり、ゆっくり 穏やかに 時間が流れた。 元の体重に戻って、自然に笑えるようになるまで半年掛かった。 焦らず、ゆっくりと。 先生の言葉通りに、 わたしは自分を取り戻した。 半年後、元同僚にあった時、今度は泣き笑いをしていた。 よかった。と 何度も涙を拭って、抱きしめてくれた。 心配してくれる人がいたこと それは、人生の宝物だ。 時に立ち止まって、自分の立ち位置を見つめることは大切であろう。 自分を失くしてまでも、選ぶモノなど 本当は無かった。 そう気付けただけで、人生丸儲け。 おいしい、嬉しい、楽しい、笑える 辛い、悲しい、苦しい そんなとき、涙が流せること 当たり前の感情は 自分を形成する、かけがえのない花たちだ。 いつだって、心の中にあるから わたしたちは 生きてる限り、何度だって 取り戻せる。 FIN
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