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イスの上に放置してある封筒には、吉田哲郎の名前と住所が書かれている。
――が、この封筒。何をどうするこうなるのかと不思議なほど汚い。
どこかのタイミングで泥水にでも浸かったのか、元々の色が判別できない。
全体的にザラつき、おまけに毛羽立っている。
四隅はすべて擦り切れて角がなくなっていた。
踏まれたうえに轢かれたと見え、靴跡やタイヤ痕が刻印されている始末。
テーブルに置くのはためらわれた。
吉田哲郎とは知らぬ仲ではない。
疎遠になって久しいが、小学生の頃は互いの家を行き来するほど仲の良い友人だった。
中学進学を期に村上家が東京へ移り住んで以来、顔を合わせることはなくなった。
ゲームソフト『リーンのアトリエ』を貸したまんま。
それでも電話や手紙のやり取りは続けていた。
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