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 「Big Sister」を含め「夜間飛行(ヴォル・ド・ニュイ)」、「海妖(セイレーン)」、三曲のミニライブが終わると一旦溶暗(フェイド・アウト)し、そのまま目が醒めた。ただ一言、かわいらしくて、かっこよくて、壮絶、の形容に尽きる……。こんな夢今まで視たことない。  学校、校門まで一直線のゆるい登り坂を歩いていると、ごきげんよう、寧音、とお姉様に追いつかれた。  「お姉様ごきげんよう」  「寧音はどうだった? 昨夜の海坂ころんちゃん。かわいかったわね。わたしはああいう音楽普段聴かないけど、ころんちゃんはいいなと思ったわ」  「クラシックがメインのお姉様がおっしゃるのだから、よっぽどですね。わたしはああいうピコピコした音、大好きだから──」  海坂ころんのプロジェクトは、ゆっくりじわじわ拡がっていった。  あくまで御当地キャラだというスタンスはぶれることなく、新曲を配信したり、あるいは、夢の中のライブで楽しませてくれる。  曲づくりも、かなりの手が込んでいた。ころんがたくさんの楽曲を分析し、そこから新曲を生成するから。  でなければ、一過性のアイドルで終わってしまう。  お姉様もわたしも、新曲が出るたび買っていた。  そして、日本中のファンにサービスする大規模な夢の中のライブが敢行される。もうその頃には、イラスト、ホログラム、カバー曲、歌ってみた系の動画などなど、#海坂ころんというハッシュタグがさまざまな創作系のタイムラインに咲き乱れていた。  わたしはお姉様とは違う大学を志望し合格していた。  嘘みたいな話だけども、勉強するときのナビゲーターの声をころんちゃんにするだけで捗るのだ。というより、うちの中のネット接続された機械の声は全部ころんの声に設定してある。  いや、そんなファンはたくさんいそうだけども……。
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