【童話】虹と月と雲

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【童話】虹と月と雲

 ある穏やかな日。  退屈を持て余したのか、虹がこんなことを言い出した。 「お月さまはつまらないね。白いだけで、お日さまのような輝きもない」  びっくりした雲が答えた。 「いやいや、それは君が夜のお月様を知らないからだよ。闇の中、煌々と輝く美しさといったら」  それを聞いた月も、恥ずかしさからつい言葉に力がこもる。 「それを言うなら雲さんだって。  朝焼けや夕暮れの色合いの美しさとときたら、虹さんにも負けない」  すると、本当は自分の美しさを自慢したかった虹がついムキになる。 「夜そんなに美しいなら、昼も美しいはずじゃないか」 「だから時間帯が違うんですよ」 「何が違うんだい。ぼくは朝でも昼でも変わらないよ」 「でも、虹さんだって夜は消えちゃうじゃないですか」  侃侃諤諤(かんかんがくがく)、それぞれが勝手に言いあうのですっかり空がうるさくなった。  虹は、自信満々で通りすがりのカラスに尋ねた。 「お前はだれが一番美しいと思うね?」  賢いカラスはこう答えた。 「私にはわかりませんが、きっとお日さまが聞いたらこう言うでしょう。 『みんな私の光を受けて世界を彩る、愛しい子供たちだよ』と」  虹と月と雲は、思わずお日さまを見た。  お日さまが微笑みながら頷いたので、虹はすっかり恥ずかしくなって、夜でもないのにすうっと消えた。  以来、虹は傲慢さを恥じて、地上で自慢げに長居することをやめたのだった。
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