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【幻想】ドラゴンの鱗
その竜の鱗は、薬にして飲めば万病に効くという。
そのたった一言の言い伝えのせいで、彼らは人の訪れない奥地へと棲みかを移さざるをえなかった。
「愚かなことよ。……あの薬草を煎じた方が、よほど効くのに」
「それを早く仰ってくださいませ!?」
困難を越えて竜の寝床にたどりつき、対話に成功した姫は目を輝かせた。
「どれほど言っても耳を貸さなかったのはそなたら人間であろう」
「なんということでしょう――兵士たちときたら! どうぞわたくしにお任せ下さい!」
――その後、都では新薬が飛ぶように売れた。
『竜の鱗よりも効果が高い、新発見の霊草』という文句で貴族階級にまず売り込み、そこから豪商、また軍部へと少しずつ品質を変えながらも入手しやすい値に落としながら広めていった。
竜に教わった草を採取、栽培し、時にはわざと盗ませて、普及に努めた。
「これでもう、あなた方を狙ってわざわざ寝床を荒らしにくる者もおりませんでしょう」
「おかしな姫だ」
「よく言われます」
姫君でありながら、生物学者。
広い王国の領土内にある、すべての命に健やかであって欲しいと願う奇妙な姫君は、その日ずいぶんと年の離れた友人を手に入れたのだった。
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