序章

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 ヘアピンカーブを曲がる。やっと気持ちのいいスピードで走れた。温泉街を抜けたので車はだいぶ減った。御殿場を抜けて富士市の方へ回り、それから富士山へ。肩が張る。その後を考えると手汗が出た。いいじゃないか。もう吹っ切ってきたじゃないか。そう言い聞かせても体の震えは止まらない。俺は自分を落ち着かせるために道の駅に寄ろうと思った。ナビを見る。今はまだ山道だ。御殿場へ入ったら道の駅を探そう。  ふと母の笑顔が頭に浮かんだ。優しい笑顔だった。笑うと目と一緒に眉毛までふにゃっと曲がる。面白くて、安心できて、綺麗だった。美人でも何でもなかったのだが、母は綺麗だった。煮物が美味かった。だが、唯一カレーが不味かったな。どの食材をどうしたらあのような無様な姿になるのか俺にはさっぱりわからない。味もカレーというよりキムチと味噌豚丼を足して二で割ったような味だった。  懐かしい。不味かったけど、今あれを食べれるなら俺は喜んで食べる。幼稚園の弁当とか、遠足の時の弁当とか大変なのにキャラ弁作ってくれたり。仕事で忙しかったろうに、俺と遊んでくれたり。  義父が来てから俺は毎日が嫌で母の優しさなんて忘れていた。義父が憎くて、別れてくれない母を責めた。自分を全く理解してないと嘆いた。勢いに任せてよく考えもせずに家を出た。会社も遠くへ行けるところだったらどれでもいいと、適当に選んだ。馬鹿だったと改めて思う。母はずっと変わらなかったのに。  御殿場インターを降りた。目の前に色々な旅館やら牧場やらの看板が建っている。信号待ちの間、それを眺めていた。  「道の駅、ふじおやま?」    
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