両親

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「俺さ、海外赴任が決まった」 「えっ?」  まさに青天の霹靂だった。  高校生の頃から付き合っている彼とは、かれこれ10年近くになる。お互い初めて付き合った人で、いずれ結婚するんだろうなー……なんて、勝手に思ってた。 「それでさ……」  長く付き合ったって、こんなもんだ。別れは一瞬。  仕事終わりに呼び出され、馴染みの居酒屋で待ち合わせ。いつもの個室といつもの料理。雰囲気だけがいつもと違って、どこか緊張した空気が流れていた理由がこれか。  悲しみか、寂しさか、思い描いてた未来と違って残念なのか。何だかよく分からない気持ちが、ずしんとお腹に落ちてくる。 「それで……」  目をそらし、ちびちびお茶を飲みながら聞きたくない雰囲気を出しているのに、彼はその雰囲気をガン無視して言葉を続ける。 「それで……一緒に来て欲しい」 「………………は?」  予想外の言葉に、変な声が出た。 「転職したばかりだし、今の職場は前と違って居心地が良いとは聞いた! でも、日本に戻るまで何年かかるか分かんねーし、帰るまで待てだなんて言えねーし、何より、俺が不安だし……」  転職して2ヶ月。前の施設は利益最優先で、利用者も職員も蔑ろにするブラックホーム。そこで無理をして体を壊し、3年で退職。今のホームは、施設長もスタッフもみんな良い方で、すごく居心地がいい。入居者さんも優しい人ばかり。 「えっと、順番がおかしくなったけど、その……俺と結婚して、それで付いて来て欲しい……」  ぽろりと涙が一つ零れた。  意識したら止められなくなって、手近なお絞りで顔を覆う。 「あ、おい、玲子……」  突然泣き出した私を前におろおろしながら、彼はうろたえる。  そんな彼をよそに、私は全く違うことを考えていた。
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