11人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
「俺さ、海外赴任が決まった」
「えっ?」
まさに青天の霹靂だった。
高校生の頃から付き合っている彼とは、かれこれ10年近くになる。お互い初めて付き合った人で、いずれ結婚するんだろうなー……なんて、勝手に思ってた。
「それでさ……」
長く付き合ったって、こんなもんだ。別れは一瞬。
仕事終わりに呼び出され、馴染みの居酒屋で待ち合わせ。いつもの個室といつもの料理。雰囲気だけがいつもと違って、どこか緊張した空気が流れていた理由がこれか。
悲しみか、寂しさか、思い描いてた未来と違って残念なのか。何だかよく分からない気持ちが、ずしんとお腹に落ちてくる。
「それで……」
目をそらし、ちびちびお茶を飲みながら聞きたくない雰囲気を出しているのに、彼はその雰囲気をガン無視して言葉を続ける。
「それで……一緒に来て欲しい」
「………………は?」
予想外の言葉に、変な声が出た。
「転職したばかりだし、今の職場は前と違って居心地が良いとは聞いた! でも、日本に戻るまで何年かかるか分かんねーし、帰るまで待てだなんて言えねーし、何より、俺が不安だし……」
転職して2ヶ月。前の施設は利益最優先で、利用者も職員も蔑ろにするブラックホーム。そこで無理をして体を壊し、3年で退職。今のホームは、施設長もスタッフもみんな良い方で、すごく居心地がいい。入居者さんも優しい人ばかり。
「えっと、順番がおかしくなったけど、その……俺と結婚して、それで付いて来て欲しい……」
ぽろりと涙が一つ零れた。
意識したら止められなくなって、手近なお絞りで顔を覆う。
「あ、おい、玲子……」
突然泣き出した私を前におろおろしながら、彼はうろたえる。
そんな彼をよそに、私は全く違うことを考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!