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それを理解した上で動いたとするならば、その決意はどれほどのものであるか。ガヤマはそれを思い、背中を寒くした。
娘を早く消さねばならない。
この歴史の表舞台に、もう出現させてはならない。
ガヤマの中に焦りと、少女に対する得体の知れない恐怖が湧き起こっていた。
それでも日常生活では、そのような心の乱れを見せることはしなかった。
いつものように堂々と立ち振る舞い、余裕がある様を皆に見せつけた。
先程の式典でも、ガヤマは努めてゆったりと構え、美女クララを横に侍らせて、国家に何の支障もない風に気取っていたのである。
それがだ。
メダルを授与された少年兵……それが、この少女だったとは。
混乱し、ガヤマはよろり、と左足を後退させた。
「……なぜだ。なぜ、そんなことが……どうやってこの城の中に。どうして、誰の協力を得て……?」
誰か、反逆者がいる。
しかも生半可な位の者ではない。
よほどの権力者がバックに付いていない限り、このような大胆な真似は出来ない。
兵隊長クラス以上……もしくは五人の息子、二人の娘の誰かだ。
いろいろな者の顔がガヤマの脳裏に浮かんだが、どれを特定することも出来なかった。
そうこうしているうちにシマは閉じられていた扉に内側から閂を掛けた。
執事は案内後、外に出たままである。
七十近い老執事だ。目が悪く、おっとりしているところもある。
気づくことなく、いつもの謁見と思い、少女を中に通してしまったのだ。
室内にはシマとガヤマ、そしてクララの三人だけとなった。
クララはずっと後方のソファに腰掛けている。
誰か兵を呼ぼう、と最初こそ思ったガヤマだったが、驚きで身体が思うように動かず、また落ち着いてくると、シマが何の武器も持っていないことが目視出来た。それで数十秒後には、警戒心は徐々に解かれていった。
「お前は……例の娘、だな」
ガヤマは口の中で言葉を転がすようにして、モゴモゴと言葉を発した。
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