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シマは扉からゆっくりと、ガヤマの方に歩み寄った。
その距離は三メートル程になった。
シマは入室した後、顔に貼っていたスキンペーパーとコンタクトを剥がしていた。
その目はまっすぐにガヤマを捉えていた。
「……そう。あたしはシマ。あなたと話をするために来た」
その声は冷静沈着で、怯え等一つも感じられなかった。
同等の者に話すようなその物言いに、ガヤマは不満そうに鼻を鳴らした。
「……何だと。話?俺はお前と停戦協定を結ぶつもりはない。何の交渉にも乗らんぞ」
「あたしもそんな気は無い。ただ、あなたの心を知りたい、と思って」
「は?何?心?」
おかしなことを言う小娘だ、とガヤマは片眉を曲げた。
そしてそれからその言葉の裏に、何か魔術的な思惑があるのかもしれないと警戒した。
「……俺は新地球律国家ドーミヤの総帥、ガヤマだ。俺は地球全土を我が地とする……そのためにはトゥリヤが邪魔だ。お前も、邪魔だ。今も世界中のあらゆる所で、我らの民は愚かなトゥリヤの民の排除に精を出している。トゥリヤは悪だ……お前がもし、考えを改め、俺に付くと言うなら……お前を生かしておいてやってもいいが」
高圧的で、一方的な物言いだった。
ガヤマは地上で最も権力を持っているのは自分であると、常々自負していた。
その言葉は真実で、事実であった。
ガヤマは完全にシマを見下していた。
どうとでもなるという自信があった。
しかしシマは、全く動揺することなく、小さく首を横に振った。
「いいえ、違う……その考えは間違っている」
「な、何だと?」
「無益な殺戮をすぐにやめるよう指示してほしい。どんなに血を流し殺しても、あなたは王には決してなれない」
ガヤマの心臓から脳へと、沸騰するかのように血が湧き上った。
侮辱と感じたガヤマは鼻息荒く、罵声を浴びせた。
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