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【3日目】
六時ちょうどに、朝食を持った音斗がドアを開けた。今日はアルも一緒だ。
アルに対しては未だに僅かな恐怖心がある。彼は音斗のような優しい目をしていない。
アルとはあまり対話をしていないから、彼を白眼視しているだけかもしれないが、そもそも対話する気にもなれなかった。
「ご飯の前に手錠外してあげる!」
音斗は涼嘉の隣に膝をついて、手錠の鍵穴に小さな鍵を挿した。
昨日の音斗の言葉が嘘ではなかったことに対し、また安堵する。
音斗はあの後風呂にも入れてくれた。見張りと称して脱衣場にずっと立っていたが、それ以外は浴室に入ってくるわけでもなく、着替える最中にずっと観察しているわけでもなくて、涼嘉は快適なバスタイムを過ごした。
新しいカッターシャツは、洗剤の匂いがして、とても柔らかい。
まるで新居に引っ越してきたようだ。
――足に絡まる枷を除いての話だが。
「蓮見くん、顔色も良好だね」
アルが涼嘉の頬や首に手を宛がう。触診でもしているかのようだ。
そして何やら背を向けて、メモを取っている。先程の行動を見る限り、恐らく自分の健康状態を記載しているのだろうと思い、敢えて何も聞かなかった。
今日は音斗がじっと見てくることもなく、部屋を行き来していたのでだいぶ食事をとりやすかった。
手首にかけられていた手錠も無くなったため、箸も動かしやすい。
「蓮見くん! はい!」
涼嘉は、いきなり目の前に置かれた三本のペットボトルに目を据えた。
部屋を行き来していた音斗が、やっと向かい側に定着する。
「それ、水とオレンジジュースとカルピス」
パッケージを一目見れば分かることだが、此処は音斗の丁寧な説明を有り難く受け取っておこう。
「この部屋に置いとくから好きなときに飲んで」
説明を補足して、大型ペットボトルの蓋に、小さなコップを被せる。如何やら其れが涼嘉専用のコップになるらしい。
小さくお礼を言い、食事を続ける。
「音斗くん、そろそろ良いんじゃないか」
「あぁ、忘れてました。……とってきます!」
音斗は思い出したように席を立ち、走って室外に出て行った。
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