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部屋に残された二人に沈黙が走ると思いきや、
「音斗くんは料理が上手いだろう」
アルがすぐに開口した。
「……はい」
「何時しか食事は音斗くんに任せきりになってしまったなぁ」
アルは軽快に笑う。
音斗とアルの関係性がいまいち分からない。顔立ちは全くの別人だが、外見年齢を見る限り友達同士にも見えない。遠い親戚か何かだろうか。
「君は本当に綺麗な目をしているね」
なんの前触れも無くアルに言われて、涼嘉はどうも、と言った微妙な反応しか出来なかった。
目が覚めたとき、音斗にも言われた気がする。
アルは涼嘉の目にかかっていた髪を掬い上げ、その瞳の奥を覗き込むように彼を凝視した。
「……もったいないくらいだな」
囁くような小声で、アルがそう呟く。
言葉の前に何か言っていたような気がしたが、上手く聞き取れなかった。
「アルさんお待たせしました~」
音斗は器用に足でドアを開け、息を切らして部屋に入ってきた。
その手には、何やら見覚えのある機材を抱えている。カメラのようなものだ。
音斗は脚立に登り、部屋の隅に機材を設置している。
涼嘉はそれを石像のように動かない表情で見つめた。
「あれが何なのか気になるかな?」
アルが横目で問い掛けた。自分の状況を考えれば、ある程度予想は出来てしまう。涼嘉は答え合わせ程度に聞いておくことにした。
「……少し気になります」
「え! 蓮見くん気になるの!? 意外だな~!」
せっせとカメラを設置する音斗が感嘆する。
何故意外なのだろうか。自分があまりにも感情を露にしないものだから、未だに状況が掴めていないとでも思っているのだろうか。
涼嘉は訝しげにカメラを見た。
「あれはな、見ての通り監視カメラだ」
「僕たちの部屋からでも蓮見くんを見れるようにするんだよ~!」
監視カメラというのは、誰にも気付かれないような場所にひっそりと設置するものだと認識していた。
まさかこんなにもあからさまに設置され、暴露されてしまうとは。
涼嘉は用途を予想していたものの、尋常じゃなく素直な犯人たちを見ていくらか困惑した。
「まぁ君のことだから逃げないだろうし、カメラをつけるのは一箇所にしておいてあげるよ」
アルの優しい微笑みが、何処と無く不気味だった。
これからは他人の監視下で生活しなくてはならないのだと思うと、気が重い。
少しだけ、この場所から逃げ出したくなった。
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