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やはり自分は何者かに捕獲されていた。
犯人の心当たりはないが、敢えてあげるとするなら、父親か祖父だろう。親子揃って、非人道的な人間だった。
しかしそうなると、いくつか疑問点が生まれる。
涼嘉は父親の家にも祖父の家にも、何度か行ったことがある。だがこんな部屋は何処にもなかった。
不可解だったが、不思議なほどに混乱はしていない。
「あ!」
突如聞こえた声に、肩を窄める。
涼嘉は首だけを動かし、声の方に視線を変えた。
其処には目を円くして立っている青年がいた。その容姿や顔立ちは、高校生くらいに見える。
艶のある黒髪は、後ろは短く切ってあって、横は若干伸ばしてある、奇抜な髪型をしていた。
青年は涼嘉の方に近付いてきて、その顔を覗き込んだ。
「わ~綺麗な目!」
涼嘉の双眸に彼が目を輝かせるのも、無理はない。涼嘉は、この国では珍しい瑠璃色の目を持っていたからだ。
おまけに頭髪も金色で、見た目は完全な外国人だった。全て母親譲りだ。
「僕アルさんに知らせてくるよ~」
青年は其れだけを残して部屋を立ち去った。
あまりにも目まぐるしい展開に、何も言えなかった。
せめてこの四肢に固く結ばれたロープを外してほしい。
鬱血するほどきつく結ばれているわけではないが、ロープのささくれが手首や足首を細かく刺激して、不快な鈍痛が走るのだ。
涼嘉が身動きひとつ取れないまま、部屋を見回しているとまた部屋のドアが開いた。
先程の青年、――とその後ろには男性がいる。
外見から判断するとすれば、三十代くらいだろうか。
色素の薄い黒髪は、癖毛なのか緩く波打っている。
鋭い獣のような目つきが静かに睨んでくるので、涼嘉はサッと目を逸らした。
「おはよう、調子はどうかな?」
見かけによらず包容力のある低い声で、男が話しかける。
涼嘉がもう一度彼に視線を戻す頃には、その男との距離がだいぶ近くなっていた。
「……あの……よく分かりません。……それよりこのロープを外していただけませんか……」
涼嘉がロープを横目に見ると、男は軽快に笑った。
「ははは、面白い子だなぁ、本当に状況を分かっていないのかい?」
状況は分かっているつもりだ。しかし男がそう言うのなら分かっていないのかもしれない。
涼嘉は『はぁ……』と上の空で返事をする。
「音斗くん、説明してあげなさい」
音斗、と呼ばれた黒髪の青年が溌剌とした声で了解しながら、敬礼のポーズをとった。
涼嘉の前に身を乗り出し、ニッコリと笑う。
「君はね、今監禁されているんだよ!」
随分と単刀直入に言われたが、涼嘉は表情を少しも崩さなかった。潔すぎて現実味が湧いてこない。
「随分とはっきり言うな音斗くんは」
男は相変わらず軽快に笑っている。青年もあどけなさの残る笑顔を顔に浮かべた。
「……でもまぁ、これで彼も分かっただろう」
「そうですねぇ」
急に冷たくなった男の声色に、青年も口角を吊り上げる。
「つまり私は逃がしてもらえないという事ですね……」
涼嘉は漸く自分が置かれている状況を確りと理解した。
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