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涼嘉はただただ天井を見据えていた。
束縛されているのだから、それくらいしかすることが無いのだ。
よく見てみると、窓は鍵まで確りと閉められている上、カーテンまでもが丁寧に固定されており、光が遮断されている。
部屋の中が薄暗く、仄かな橙色に染まり始めた。きっともう直ぐ夕陽が落ちる。
時計が無く正確な時刻が分からないが、その光の色で何となく予測は出来た。
「蓮見くーん。一緒にご飯食べよー」
急にドアが開いたかと思えば、聞こえてきたのはそんな陽気な声だ。
涼嘉はまともに反応することも出来ずに、ただ黙って視線を変えた。
入ってきたのは音斗で、二人分の食事を両手に持っている。恐らくドアは、器用に足で開けたのだろう。
音斗は食事をテーブルに置き、涼嘉を見て何故か頭を抱えていた。
其処に、アルも入室する。
「あっアルさーん! 蓮見くん如何しましょう、縄を解いてもいいですかー?」
「あぁ、代わりにこれを」
まるで其れは、音斗の質問をわかっていたような口振りだった。
アルに手渡されたものを、音斗が相変わらずの無邪気な笑顔のまま受け取る。
それは、シンプルな手錠と足枷だった。
逃げるつもりは無いが、大人しく枷をはめられるつもりももちろん無い。
音斗は鼻歌を歌いながらロープを解いていく。ささくれが皮膚にチクチクと刺さる。
「……なんで私なのですか」
不図聞こえた声に、音斗が顔をあげた。アルも涼嘉を凝視する。
「私なんかを、……如何するのです」
氷のように冷たい表情のまま、涼嘉が問い掛ける。
意外なほどに単純な質問だったが、恐怖心にも駆られず、怒気も感じさせないその表情を見ていると、何処と無く腑に落ちない。
強いて例えるなら、涼嘉は疑問を感じているような顔をしていた。
「それを教えてしまったら面白くないだろう」
アルは余裕のある笑みを浮かべた。
それとは対称的に、涼嘉の表情は変わらない。もう運命を受け入れてしまったように、抵抗さえもしない。
音斗はその心の内が理解できずに、首を傾げながら涼嘉に枷を掛けた。
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