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【第二話】
空がオレンジ色に染まり始める。
街が目を覚ます前に、朝陽は玄関に設置してあった監視カメラを部屋に移動させることにした。
衣知は未だに震えていた。当然の反応だ。誰だって慣れない環境に置かれれば、不安を抱えるものだ。
「衣知、今日からよろしくな」
身動きの取れない衣知は頭だけを上げて、懇願するような瞳を向けた。
「もう冗談はいいから、これ取れよ…」
「冗談? 衣知こそ何言ってるの? 俺たちもう恋人同士じゃないか」
「は!? 何言って……」
「冗談は寄せよ、衣知」
一笑すると、主人に“待て”をされた忠実な犬のように衣知が黙り込んだ。
「ふざけるな……なんで、なんで……」
お経のように同じ言葉を繰り返す衣知。こんな形でしか彼を守る事が出来ない自分がもどかしかったが、引き返そうとは思わなかった。
衣知の為になるのなら、法律も常識も必要ないのだ。
「大丈夫だよ、ずっとそれつけてるわけじゃないし」
「そういうことじゃないんだよ! も、もう帰るから外してくれ……!」
「衣知、俺はな、恋人を守るのが彼氏の役目だと思うんだよ」
「……意味わかんねぇ……」
嗚咽混じりの声が右から左へ、流れていく。衣知が何故そんなに悲しむのか、理解に時間が掛かった。
最終的に出た答えは、やはり『新たな生活への順応力が欠けているため、不安を覚えている』というものだけだった。
それにしても自身が選んだ男と一緒になれる喜びよりも、不安の方が勝っているというのは驚きである。
もしかしたら、不安の中には愛ゆえの緊張も混合しているのかもしれない。そうであれば、納得がいく。
朝陽は、全く照れ隠しもいいところだな、と鼻で笑った。
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